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第6曲 歩と紬 
2010 / 06 / 11 ( Fri )  22:01







 捨てたから、実は愛しかったのだと思い知った。
 再び触れて、やはり好きだったのだと知った。

 それと同時に。
 愛しさ故に、一度捨てたから再び触れて良いのか躊躇した。

 だから、心からは楽しめていなかった。



 けれど。
 彼女たちの音楽に触れ、彼女たちが本当に楽しそうに弾いているから。

 本当に、音楽が好きで好きでたまらないと、そう笑顔で語っていたから。
 
 自分も同じ気持ちで―――――。

 ――――昔の気持ちを。

 そう、一瞬でも思ったのだ。










 


「それでね、昨日の晩御飯は憂特製のグラタンだったんだよ~」
「そうか。それは美味そうだな」
「は、恥ずかしいよぉ、お姉ちゃん」

 朝、生徒たちが通学中の中、偶然遭遇した唯と憂と歩。
 持ち前の明るさから、唯が気軽に声をかけて走り寄り、何故かビシっと敬礼を

して挨拶した。
 歩も穏やかに微笑んで唯に挨拶する。

 そしてふと視界に入ったのが、唯の後ろにいた彼女にとても似た雰囲気を醸し

出す少女であった。
 その少女は歩の視線に気付くと少し恥ずかしそうにして唯に隠れ、歩を伺って

いた。
 
 唯と雑談しつつ学校へ向かう。
 そこでふと、未だに自己紹介がしてないことに気付く。

「ああ。そういえばまだ自己紹介はまだだったな」
「ほえ?」
「?」
「初めまして。鳴海歩だ。君のお姉さんと同じ学年で、軽音部に先日、マネージ

ャーとして入部させてもらった」
「あ、あの、こちらこそ初めまして。平沢憂です。お姉ちゃんがお世話になって

ます、というかこれからお世話おかけします」
「あ、ああ」

 憂の言葉に歩は目が点になりつつも頷いた。

(平沢の妹か・・・・・・似てないな。もっと姉に似てボケボケしたタイプかと思った

が)

 随分と失礼なことを考えている歩であった。









(この人が鳴海歩さん、かぁ)

 姉から聞いていた話から感じた印象とは少し違う。



『凄いんだよぉ! こう、じゃじゃ~~~んってピアノ弾いて、じゃらららら~

~と指が流れるようでぇ!』
『むぎちゃんが言ってたんだけど、鳴海君って世界を代表する才能を持つピアニ

ストなんだって!』
『なんていうか、貴公子って感じ?』

『へぇ~~~、なんだか凄い人だねえ』

   

 最近交わされた会話が、どうやら自分の中で目の前の男性のイメージを勝手に

固めてしまっていたらしい。
 だが良い方への間違ってくれたようだ。

 かなり顔立ちが整っていて、ピアスまでしている少し怖い感じの人。
 けれど何処か儚く、淡い。

 それが、憂の初対面の感想であった。

「あ~、俺は君のことを何て呼べば良いだろうか・・・・・・平沢妹? いや、これは

ダメだな」

 歩は自分で考えておきながらすぐに否定する。
 自分が『鳴海弟』と呼ばれる度に、自分の存在が兄に隠れているようで嫌だっ

た。
 だから否定した。

 しかし会って間もない、しかも女の子なのだ。
 いかに遠慮のない、容赦のない性格の歩であっても、常識が欠如している訳で

はないので困り果てた。

「あの、私の事は憂でいいですよ? もしくは平沢妹でも」
「あ~~~~~~、下の名前で呼ぶのはさすがにな」

 ボリボリと頭を掻く。
 そんな歩に憂はクスっと笑って云った。

「そこまで深く考えなくて良いんですよ。お姉ちゃんと同じ軽音部に入ったなら

、私にとっても身近な存在ですから」
「なるほど・・・・・・身近な存在故に下の名前でも構わない、か」
「はい」
「まあ、それはもう少し親しくなってからにしよう。とりあえずは平沢さん、で

いく」
「あはは。はい、それで良いです」
「む~~~~~、なんだか私、除け者扱いだなぁ」

 憂と歩が仲良く話しているのが、自分だけ仲間はずれに感じたのか、唯が頬を

膨らませた。
 
「はぁ・・・・・・どこをどう聞いたらそう聞こえるんだ、平沢」
「憂はあげないよ! 憂は私の妹なんだから、私を倒してからにしないと!」
「お、お姉ちゃん!」

 何故かジーンと感動する憂。

「勝手に言ってろ・・・・・・」

 ガックリと肩を落とす歩はスタスタと早足になって先を行く。
 そんな歩に苦笑しながら「待って~~~」と言いつつ小走りになる唯と憂であ

った。








 鳴海歩の新生活は、意外と悠長なものであった。
 基本的に桜ヶ丘高校は普通の公立学校であり、全国一の進学校である月臣学園

とは学業レベルも進行速度も楽なものである。
 唯一の『女性のみの学校』の環境に身を置いている歩であるが、男性教員もい

るので、そこまで孤独な訳ではない。

 また、鳴海歩は昔から両親にすら無視されるという孤独を味わい、そして兄に

より徹底的に打ちのめされて辛酸を舐めさせられた過去を持つ男。
 そこら辺の一般人よりも、精神的には圧倒的にタフネスであった。

 故に歩は、このような事態でも動揺しない。

「ねえ、鳴海君? 君に次の写真のデータを贈呈しよう! 入部記念品だ」

 いつもように軽音部の部室で放課後、ティータイムを楽しんでいた一同。
 その中で、律が歩へとズイっとデジカメとSDカードを進呈してくる。

「・・・・・・なんの写真だ?」
「フフフフ・・・・・・見たまえ!」

 変に得意気な律に問う歩。
 そしてそんな律に、怪訝な表情をしつつ紅茶を啜る澪と梓。ニコニコと笑顔を浮かべる紬。そして首を傾げつつもケーキを食べる手を止めない唯。
 律はデジガメの画面を見えるように機械を翻し、バッと翳した。

「ブフゥ――――――――――――っ!!」

 紅茶が綺麗に舞った。
 正にそれは、プロレスの技の毒霧である。

「・・・・・・おい。それを俺に渡されても困るんだが」
「何やってるんだ、律~~~~!!」

 その画像は、2年の時に彼女たちが軽音部合宿に行った際の、水着姿の澪画像であった。
 砂浜で黒の水着を着込み、恥ずかしそうにカメラを持つ律を見る澪。
 
 澪ファンクラブメンバーなら、鼻血モノな画像である。
 当然だが澪は顔を真っ赤にしてデジカメを引ったくり、律へと拳骨を落とした。

「い、いやぁ。澪の為に人肌脱いだんだけど・・・・・・」
「いらんお世話だ!」

 ガルルルル、と今にも唸り声を上げそうな澪と、煙を頭から出しつつ突っ伏した状態で言う律。
 そんな2人の遣り取りに苦笑しつつ、歩は言った。

「悪いが俺は興味がないんだ。田井中、悪いな」

 歩の言葉は何気ない、特に深い意味もない言葉である。
 だが、その言葉に澪の顔は暗くなった。
 一瞬だけ、一瞬だけだが顔が歪んだ。それは本当に、本人すら気付かぬほどの無意識の反応であった。

 そしてそれを見ていたのは、自分の発言で己に視線が集まっていた彼女たちではなく、歩自身であった。

 故に、目を伏せ。

「――――まぁ、秋山はスタイルいいよな。綺麗だと思うぞ」

 1年前から変わった、彼なりのフォローという優しさであった。

「だよねぇ。澪ちゃんスタイルいいよねぇ」
「ですよねぇ。羨ましいですよね」
「はい。澪先輩綺麗です」
「~~~~~~~~~~~っ」

 澪は歩の言葉と、皆の褒め言葉に一層真っ赤になった。
 歩はそんな彼女に小さく笑みを浮かべ、そして紅茶を口に含んで楽譜にペンを走らせる。
 それからは澪と律が再びじゃれ合い、唯と梓がそこに加わって
 唯一、紬だけが歩へと優しく微笑んでいた。






 それから数時間が経ち、彼女たちも一通りの練習を終えて帰路へと着いていた。
 ちなみに、電車で帰るのは紬と歩しかいない。

 必然的に、2人っきりになる。

「あの・・・・・・」
「ん?」

 ガタンゴトンと、心地よい音が車内に響く中、歩と紬は隣に座りあっている。
 紬は歩を何度も伺い、そして決心したように聞き出した。

「軽音部には、慣れました?」
「ああ。楽しませてもらってる」
「そ、そうですか。よかった~」

 紬は手を合わせて喜びを表現する。

「軽音部の皆、私とっても大好きなんです。大事なお友達です。だから、嫌いになって欲しくなかったんですよね」
「・・・・・・そうか」
「はい。特に・・・・・・私が憧れたあの『鳴海歩』さんなら」
「俺が? 兄貴の間違いだろ」

 紬の言葉は歩の勘に触った。
 歩の周囲の人間で、誰もが『ピアノ』について言ってくるなら、まずは兄の鳴海清隆について言ってきたからだ。
 
 鳴海清隆の弟なら、ピアノをやるべきだ。
 鳴海清隆の弟なら、これくらい出来て当然。
 あの神話、鳴海清隆の弟なんだから。
 凄い才能を継いでいるんだから、ピアノはやるべきだ。

 その才能が『清隆のクローンであるから』という真実が発覚した今、事情を知らない人間がピアノの感想を言うと、常にそれに触れることになる。
 いくら兄に最終的に勝利したとはいえ、またか、とウンザリするの仕方がないだろう。

 故に、その声が不機嫌なものへと変わる。
 紬は焦った。

「え? ち、違います。確かに鳴海清隆さんのピアノは・・・・・・凄いと思います」
「・・・・・・・・・・・・」
「けれど、私は貴方のお兄さんよりも、天使の指先と云われた鳴海歩さんのピアノのファンなんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから聞きたかったんです。

 ―――――ピアノ、もうやらないんですか?」

 紬の言葉に、歩は己の心臓に矢が突き刺さったように感じた。
 最終決戦が終わった後、誰も言わなかったその言葉。兄も義姉も友人も宿敵も。そして相棒も。

 自然と、紬から離れたくなった。

「・・・・・・・・・・・・」
「ファンだったから・・・・・・突然いなくなった事でショックだったんです。調べたら辞めたという事実しか出てきませんでしたから」
「・・・・・・・・・・・・」
「私もその時に迷いました。そんな時、軽音部の皆と出会って、今は軽音部に入ったことになんの後悔もありません」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
「はい」

 沈黙が続いた。響くのは線路を走る電車の音と、車掌のアナウンスの声。
 歩は乗り換え駅に到着したので席を立つ。

「琴吹」
「は、はい」
「先ほどの答えだけどな・・・・・・」

 歩は振り返って笑った。
 その顔は、あまりにも儚く、そして昔と同じように諦念の感しか浮かんでいなかった。

「今更やっても――――――――もう遅いんだよ」
「・・・・・・・・・・・・え? それってどういう―――」

 紬の言葉に答えることはなく、歩は駅の喧騒の中に消えていった。
 紬は思わず立ち上がり駆け寄ろうとするが、電車のドアが閉まったことでそれは叶わなかった。

「なにが・・・・・・あったっていうの・・・・・・」

 ピアニストになるのは、年齢など関係ない。
 20代後半でプロのピアニストになった人もいる。年齢なども関係ない。それなのに遅いとはどういうことだろうか。

「なにが・・・・・・」

 憧れから身近なものに。
 そして仲間にあった『異常事態』を、初めて気付いたのだった。
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