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第2曲 軽音とピアノ 
2010 / 06 / 11 ( Fri )  21:46








「はぁ・・・・・・」

 小さな、けれど確かに重たい溜め息が、真っ青な天空へと消えていった。



 鳴海歩の転入、それはやはり当然ながら一大センセーションだったようで、女子生徒ばかりであった女の子たちは興味心全開で歩を見てきた。
 最初の自己紹介に始まり、休憩時間の絶えず会話を持ちかけてくるクラスの面々。また廊下からは学年を問わず歩を見にやってくるのだ。

 歩自身、この経験は初めてではない。
 1年前の件で、歩は後ろ向きな人間から少しは前向きへと変わり、クラスメイトたちとも交流をまともに行うようになった。その結果、元々『神の弟』として類稀な才能の持ち主であった歩と『悪魔の弟』であったヒズミは、学年を問わず人気者になった。
 当然のことながら告白も頻繁に起こり、2人はどこに行っても視線を集めていたものだ。

 だがやはり新天地で、しかも女子高でのソレはやはり辛い。
 気疲れというべきか。学力に関しては全く問題なく、挨拶を交わした理事長や教師たちとも問題なく進んだはずだ。

(ったく・・・・・・どうせ後数年の命だっていうのに、なんで今更こんな苦労をしなきゃいけないんだか)

 少々投げやりな言葉を吐いてしまっても仕方ないだろう。

 昼休憩くらいはゆっくりしたいと思い、屋上に弁当を持って出てきて秋空の下で休んでいた。
 今日作った弁当は、珍しく歩ではなく、義姉であるまどかが作ったものだ。料理は決して上手くないまどかだが、流石に歩を気の毒に思ったのか、がんばって早起きして作ったらしい。
 まどかへ少し前まで恋心を抱いていた歩としては、有り難く受け取ってきた。
 焦げた玉子焼きやごぼうの肉巻きや野菜炒めも、味が濃かったり薄かったりするが、やはり胸に来る美味しさがある。

「・・・・・・・・・・・・」

 手すりから校舎を見下ろすと、あちこちで女生徒たちが談笑したり、遊んだりしている光景が目に入ってくる。とても楽しそうで、笑顔は輝いていて、明日への希望を胸に今を生きている。
 
 ふととある教室に目を向けると、そこには机に座って幾人かで談笑している子たちが目に入った。
  
 彼女たちは椅子に座って何かを話している。そこは普通であったが、時々、赤み掛かった茶髪の子がギターを持って何やら演奏ポーズをとったり、隣の子がドラムを叩く仕草を見せたりしていた。

「・・・・・・バンド、か? いや、学校という枠組みを考えると軽音楽、か」

 何やら楽しそうにティーカップをもって楽しそうに談笑する彼女達。
 それを見て歩は堪らなり、逃げるように食べ終わった弁当を持って屋上を後にした。





「鳴海君、遅くなったけど、学校の案内をしたいんだけどどうかな?」
「ああ、助かる。ありがとう。ああ~~っと・・・・・・・・・・・・」
「真鍋(まなべ) 和(のどか)です。先生から鳴海君の案内を任されました。一応、生徒会にも入ってます」
「そうか、よろしく頼む」

 一日を終え、終礼も終わった頃、クラスでも担任の信用が厚い女子生徒が1人歩の下にやってきた。
 同じクラスメイトとなるのだから、歩も無碍に断るようなことはしない。

 ・・・・・・・・・・・・昔なら問答無用で即座に断っていただろうが。

 2-1の教室から廊下に出て、それぞれのクラスの位置。そして移動教室となる理科室や実験室、家庭科室、事務室、体育館と紹介される。

「なんだか紹介する必要ないみたいね。大体の位置はこの時間までに覚えてたんじゃない?」
「まあ、そうかもな。一度通れば大体は覚える。だが細かな場所までは流石にな。だから助かった」
「なら良かったかな。あ、ここは生徒会室ね。困ったことがあったらここに来て。私はだいたいここにいるから」
「ああ、わかった」
「そういえば、鳴海君は部活はどうなるの? やはり女生徒ばかりだから難しいの?」
「・・・・・・まだ決めてないし、聞いてもないな。だが・・・・・・」

 部活をやっても仕様がないしな、という言葉は飲み込んだ。自分はこれからできるだけ長生きしなくてはならないのだ。ブレードチルドレンの面々のために。彼らの希望となるために。
 しかし、どうしても恐怖と孤独から投げやりになりそうになる。何より、自分の隣にとある人物が今はもういないのだから。

 一通り回って戻ってくると、のどかはそこで重要なことに気づいたように階段のところで立ち止まった。
 歩は怪訝そうに尋ねる。

「どうした?」
「あ、うん。この上にも音楽室があるんだけど、そこには私の幼馴染がいるんだ」
「ほぅ・・・・・・」

 歩の頭の中で即座に学校の見取り図が展開され、屋上でみた時のギターの連中のことだと察する。

「その子、軽音楽部なんだけどね」
「軽音楽部か」
「うん。とっても上手いんだよ。軽音部の演奏、うちの学校の皆も好きみたいだし」
「そうか」
「ああ、ウチのクラスの子で秋山澪って子がいるんだけど、その子も軽音部だよ」
「ふ~ん」

 のどかの声が少し優しくなっていることに気づき、その幼馴染と本当に仲が良いんだろうなと思う。
 そういえば幼馴染なんていないな、と歩自身に気づき、少し残念に思う。
 あのブレードチルドレンの面々は、基本的に幼いころから銃弾と爆弾の嵐の中、共に戦ってきたので幼馴染というのが当たり前だ。
 特にメガネの男と元気はつらつな陸上娘の関係が顕著か、と呟く。

「じゃあ、こんなところかな」
「ああ、ありがとう。この礼は必ずする」
「いいって。私も先生に頼まれたことだし、それにクラスメイトでしょ?」
「そうか。ありがとう」
「じゃ、また明日ね」
「ああ」

 そういってのどかは教室へと戻っていった。
 それから歩は廊下をゆっくりと歩く。チラチラとこちらを伺いながら通り過ぎていく女子生徒を無視し、ゆっくりと廊下を歩く。
 1階の職員室前の多目的ホールにやってきた。
 基本的に、多目的ホールはイベント時の使用以外には使うことはない。
 だがそこにはイベントのためにピアノがおいてあることが多い。

 この学校も例外に漏れなかったようで、オルガンピアノが置いてあった。
 さすがにグランドピアノは音楽室か、と呟く。この時間なら吹奏楽部が使っているから無理だろうなとあたりを付け、そのピアノの前に行く。


 正直、苦痛だった。


 この平穏が。
 この温もりが。
 時間がない自分の状況が。
 未来がある同世代の連中が。

 
 兄である神に勝利した時に歩が払った代償は、今後1人で生きていくこと、幸せそうに見られず、孤独の位置にいて、されど笑っていること、その最後のときまで希望を繋いでいくことだった。

 だが。

 やはり1人になったとき、死の重圧は大きい。

 せっかく己というものを取り戻し、生まれたときからのプレッシャーである兄に勝利したというのに。納得してソレを選んだはずだったのに。

 このまま死亡するのが、怖い。

「・・・・・・・・・・・・っ」

 椅子に座ってしがみつくように鍵盤に手を置き、激情が溢れるまま、指を滑らした。

 その曲は、カノン・ヒルベルトの月読学園占領事件の時にも弾いた曲。



 フランツ・リスト作曲 

 詩的で宗教的な調べ 第3番

 ――――孤独の中の神の祝福――――




 その曲は、事件の時のように学校の敷地中に響き渡った。
 寒気のするような音と、急かされるような、心が締め付けられるような音を奏でた。











「ほえ・・・・・・・・・・・・?」
「んあ? なんか音が聞こえないか?」
「これはピアノ、か?」
「どうしてピアノの音が聞こえるんでしょう。ここら辺にはピアノなんて無いのに・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

 軽音楽部―――放課後ティータイムのメンバーは、まったりとシュークリームと紅茶を楽しんでいた。
 学園祭も無事成功し、唯の体調も完全に治って、これからメンバーで『目指せ武道館』を目標にがんばっていこう、そう指針を立てた今日。
 でもやっぱりこの部特有の放課後のティータイムをみんなで満喫していた。

 そんな時だった。

 どこからかピアノの音が聞こえてきたのは。
 初めは小さかったが、序所に聞こえてくるメロディは、今ははっきりと聞こえる。

「うわ・・・・・・なに、この音。なんかこう、鳥肌が立ったし」

 律が両腕を擦る仕草をみせる。
 その意見に同意なのか、唯も梓も澪も頷く。

「これ、スピーカーにでも差して音出してるのかな?」
 
 唯の最もな疑問に、澪が答える。

「ピアノでスピーカーなんか聞いたことないけど・・・・・・それに可能なのか? それって」
「さあ」
「あ、そうだ。むぎなら分かるんじゃないか?」
「そうですね、むぎ先輩は元々ピアノをやってたんですよね」

 ポンと手を合わせる梓。
 律も頷いて紬へと振る。全員の視線がむぎへと集まる中、紬の視線はどこか虚空を彷徨っている。
 その様子に皆が首を傾げる。
 すると紬は、ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと廊下へと出て行く。

「おい、むぎ!?」
「むぎちゃん!?」

 夢遊病患者のように出て行った紬に、皆が驚いて慌てて追いかけた。
 廊下に出ると音は顕著に聞こえ、その旋律に寒気がする。

「どうしたんだろ、むぎちゃん」
「心配ですね・・・・・・」

 唯が潤んだ瞳で前で歩くむぎを心配する。こんな変な紬に梓も唯に同意のようで、心配そうにしている。

「このピアノの音が聞こえてからだな、むぎがおかしくなったのは」
「そうだなぁ。例えばこれを弾いてるやつと何かあったとか、実は昔に生き別れた妹とか!」
「嘘をでっちあげるな!」

 澪が推測したことに対し、律が少しからかい気味に冗談を言う。
 即座につっこむのは流石は幼馴染というところか。

 そんな漫才を繰り広げながらも皆は心配して付いていった。
 すると紬はとある場所で足を止めた。

 そこは多目的ホール。

 その場所には、放課後にも関わらずに大勢の人間が集まっていて、1人の人物を中心に集まっていた。
 吹奏楽部などの文化部以外にも運動部の姿も見える。
 皆が音に釣られて様子を見に来たという感じだ。

 そこで唯たちはこの曲を誰が弾いてるか知った。

「アレって、もしかして今日転入してきたっていう男の子じゃない? みおちゃんのクラスに来たんでしょ?」
「あ、ああ。鳴海君だったな。鳴海、歩っていったかな」
「すっげ~~~~、めちゃ上手。なにもんなの?」
「いえ、律先輩。これは上手いどころの話ではないですよ。凄すぎます」

 クラシックについてさっぱり分からない面々なのだが、歩の演奏だけはまったくの別物にしか聞こえなかった。
 ピアノって、こんな音が出せるんだ、と。
 初めて思い知った。

「やっぱり・・・・・・・・・・・・“あの”鳴海歩なんだ・・・・・・」
「むぎ?」

 初めて紬がぽつりと言葉を洩らした。
 その声に、唯たちは耳を澄ます。

「心配かけてごめんなさい、みんな」
「むぎちゃん・・・・・・」
「だけどね、私、どうしても確認したかったの。あの人が、あの鳴海歩本人なのかって」
「あの?」
「私、4歳のころからピアノやってたっていう事は、皆も知ってると思うけど」
「ああ、知ってる知ってる。だからむぎのキーボードは上手いもんな」
「ありがとう。だけど、私の腕では、彼には敵わない。ずっと、ずっと上手いの」
「そんなことはないと思うけど」

 唯は否定した。事実、紬はとても上手かったし、その弾き方やメロディは、彼女の優しさが溢れているからだ。
 だが、そんな気持ちに紬は自嘲気味に笑って否定した。

「ううん、私なんて小さなコンクールで賞をもらえる程度。だけど彼は違うわ」
「むぎ、知り合いなのか? あの、鳴海って奴と」

 よく知っているのよ、と云わんばかりの言葉に、律は問う。
 紬は小さく頷き、曲も残りわずかといわんばかりの時、自分が知りうる限りの鳴海歩について言った。

 この演奏で確信したのだ。

 ありえないほど遠くまでに音を響かせ、聞くものを揺さぶる演奏者の実力。

 それが――――ピアニスト。


「鳴海歩。日本のピアノ界を背負って立つといわれ、その繊細な弾き方、比肩無き才能から世界から称され称えられたわ。

 ―――――天使の指先、って。

 間違いなく、世界を代表するピアニストよ」


「世界を・・・・・・」
「代表する・・・・・・」
「「ピアニスト」」

 ただの学校のバンドだけではない。
 まさに、自分たちの夢、目標である、武道館。
 それに届く実力を持つ、人物。

 そんな人物が、目の前に現れたのだった。








「すごい演奏だったな・・・・・・」

 ポーっと夢見心地で机に向かう澪。手元ではPCをイジっていたのだが、まったく作業は進んでいない。

「むぎの動揺も、今なら分かるな・・・・・・そんな実力の持ち主が現れたら、驚きもするよな」

 紬が一方的に知っている立場だが、当たり前だ。
 なんだか自分達の夢を、リアルに感じて、真剣に考えさせられることになった。
 ひょっとしたら紬は、才能の限界を感じてピアノを止めたのかもしれない。
 それはまったく関係なく、ただ1人のピアノ演奏家として、鳴海歩というピアニストをあこがれていたのかもしれない。

「ピアノという楽器に限らず、ああいった演奏や才能が、世間でも成功するものなんかもしれないな」

 負けたくない、そう澪は思った。
 帰宅の時、唯や律や梓はただ歩の演奏をすごい、上手いと褒めていた。
 澪自身もそう思った。
 だが、一つだけ違った。

「なんか・・・・・・ちょっと悲しく思えたのは、私が変なだけなんだろうか」

 その日。
 確かに運命が変わった気がした。

 良い方へと、変わる気がした。
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