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第10曲 少女の願い 
2010 / 10 / 24 ( Sun )  22:45







「寒くなってきたな」

 一日のカリキュラムを終え、終礼のHRを終えたばかりの時間。
 鳴海歩は窓から外を眺め、ぼんやりとそんな事を呟いていた。

(今日は部活に行かないとな……昨日はサボった形になったし)

 協会への報告手続きなどで昨日は放課後をつぶしてしまった。
 それからは深夜まで練習に明け暮れ、まどかに改めて「やっぱりピアノが好きなのねぇ」と言われてしまったのだ。

「そういえばアニキの奴、妙にニヤニヤしてやがったが……何を企んでやがる」

 昨日の夜、変な電話がかかってきて、電話相手が兄に妙に興奮したように怒鳴っているようだった。
 兄はそんな相手を宥めていて、タイミングが合わなかったとか、訳のわからない事を連呼していたが…………。

 その後の兄の妙な企んだ態度に引っ掛かった歩だったが、面倒臭くて無視したのが悪かった。
 何か起こりそうな気がする。
 主に自分の周り限定で。

「はぁ…………」

 ドッと溜息を吐いて机の中の教科書を鞄に放り込み、席を立つ。
 すると目の前に誰かがやってきた。
 澪であった。

「鳴海君、今日は部活に来る、よね?」
「ああ。昨日はすまなかったな。どうしても外せない用事があってな」
「そ、そっか。でもそれなら一言、言っておいて欲しいかな。何かあったんじゃないかって心配する」

 少し不満な気を見せる澪。私は怒っているんです、と言いた気にそっぽを向いて頬を膨らませる彼女は、なんだか微笑ましい。
 歩は悪い悪い、と手を合わせて謝った。

「さあ、行こうぜ」
「うん!」

 2人揃って廊下を出て、音楽準備室へと向かう。
 会話は途切れているが、なんだかそれが自然に関じられて不思議と苦痛ではなかった。

 階段を上っている中、ふと澪が昨日のことを思い出した。

「そういえばさ」
「ん?」
「昨日、竹内理緒さんって子が訪ねてきたんだけど」
「…………ああ、あいつか」
「知り合い? なんだね」
「まあ、知り合いといえば知り合いか。かれこれ……1年以上の付き合いでもあるな」

 初対面でいきなり彼女の胸元で爆弾が破裂したり、爆弾付きの首輪をつけられ、まさに極限のゲームで殺し合いをしたりした。
 その後はカノン・ヒルベトの件で共闘し、何かと言葉を交わし、彼女から信頼という言葉を多く貰ったが……。

 また歩本人としては、彼女の卓越した頭脳は好感が持てる。
 言葉の切れ端だけで、言いたい事の内容を即座に察知し、また気持ち良い程の回答で帰ってくる。まさに打てば鳴るというところか。

(出会いからの一件は……まあ非常にアレだが、ブレードチルドレンの中でも特に親しいといえばあいつか。ラザフォ-ドは……違うしな)

 白鳥とでも形容できる男が浮かび、即座に否定。あれは好敵手だ。決して親友ではない。あいつもきっとそういうに違いない。
 
「ふ~~~~ん」
「……なんか勘繰ってないか?」
「何も!」

 澪としては本当になにもないのだ。
 ただ何かが、何かが引っ掛かった。それだけだった。

「まぁ、あいつも入部するようだからよろしく頼む」
「うん」

 その回答に歩もうなずいて、そして扉を開けた。

 その先にいたのは……。











「あ、弟さん、じゃなかった……歩さん、お久しぶりです!」

 リスのように頬を膨らませてケーキを食べる理緒と、苦笑している律、理緒の様子に何故か目を輝かせている唯や梓や紬の姿だった。 











「ああ、アンタか。久しぶりだな」
「はい、歩さんこそ。驚きましたよ、ここに転入してたんですから」
「兄貴の所為でな」

 席に着くと歩もケーキと紅茶を貰い、まったりティータイム。
 軽い自己紹介と共に皆が雑談を交わす中、歩が理緒に話しかけた。
 歩の言葉に理緒は小さく頬笑み、笑いかけた。

「……あの時ずっと入院していて、最後のあの時に手伝えず、申し訳ありませんでした」

 理緒が神妙な顔をして頭を下げた。

「入院って……病気でもしてたの?」
「大丈夫なのか?」
「律先輩、ここにいるんですから、もう大丈夫ってことだと思いますが」

 唯と律の戸惑いながらの言葉に小さく笑って大丈夫だと言い、歩へと再び目を無けた。
 一般人の彼女たちの前では、迂闊な言葉は言えない。
 だから、自然と目と目で会話になる。

 言葉は少ない。けれど何が言いたいのか、歩はよく分かった。

「全部、聞いたのか?」
「はい、キリエさんから」
「なるほどな……まあ、気になるな。全てを終わらせて、今の俺がいるんだからな」
「…………はい」

 その先に待っているのは、歩のクローン体という特別な事情による、細胞劣化からの死。
 既に悪魔の弟、水城火澄という少年は、病院で新薬の臨床被験者として闘病生活を送っている。

「なんかよく分かんないから、私にも分かるように説明してよ~~~」

 唯が頬を膨らませながら、パンパンと両手を叩いて煽る。
 どうやら除けものにされたのが納得できなかったようだ。

「簡単に言えばな、俺がここに来る前にちょっとした事件があってさ」
「事件!?」
「……目を輝かせるな何も期待するな。まあ兄貴が刑事だからな。そっち方面で巻き込まれて俺やこの理緒が怪我したんだ」
「うわ……そんなドラマのようなこと、本当にあるんだ」

 巻き込まれた、という言葉に律が少し引いたような反応を見せる。

「だけど俺の方が退院も早くてな。事件解決に兄貴の手伝いをして、こいつが退院した頃には全て終わってました、という訳だな」
「なるほど~~~! ダーティーハリーのような感じ? 金曜ロードショーのようなドンパチが繰り広げられたとか!?」
「ないないないないない」

 唯が目を輝かせて銃を手に持っているしぐさを見せながら、ポーズをとる。
 即座に否定した歩だったが、内心では「実はその通りなんだが」と思いながらもブンブン首を振って否定する。
 梓や紬そして澪なんかは唯の反応に苦笑していた。

「使ってみますか?」
「へ?」
「ハリー・キャハラン刑事の使用している銃は『S&W M29』という銃で、これのことです」

 そういうと、理緒は『脇腹あたりの制服の裾』を持ち上げ、そこから一丁の銃を取り出した。


「「「「「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」
「おい!」

 実銃を取り出した事と、どこから取り出しているんだ、という2重の意味での突っ込みをする歩。
 それを余所に、そのリボルバー式の銃を恐る恐る覗き込んでいる5人。

「本物みたいだね~~~~」
「かっこいいですね」
「でもでも、エアガンとはいえ、やっぱり怖いぞ」
「とってもリアルですねぇ」
「弟もエアガン持ってるけど……こんなにリアルだったかな?」

 どうやらエアガンだと思ったらしい。
 若干1名ほど、かなり怪しいのもいたが。

「学校にこんなの持ってくるな!」
「ぶぅ~~~~~~」

 歩の怒りにむくれる理緒。

 彼女は世界中でこう評されている。

『爆炎の妖精』
『爆発物のエキスパート』
『ブレードチルドレンの頭脳』

 名は体を表す。まさにぴったりな二つ名。
 あのブレードチルドレン最強と言われたカノン・ヒルベルトですら、理緒を殺害しようとしたら二の足を踏み、最大限に警戒する。
 迂闊に攻撃をすれば自分まで巻き添えを喰らってしまう、それほどまでに何が起こるか分からない相手。

 そして彼女がいれば、爆発物はどんなものでも解体されてしまう。
 とどのつまり、彼女は四六時中、必ず危険物を持ち歩いているのである。

 まさに人間火薬庫、という呼称がふさわしい。

「他にエアガンってあるの?」
「ありますよ。これはイスラムの解放軍が使ってる――――――」

 調子に乗った理緒が、怖いもの見たさで興味をもった一同に、次から次へと『実銃』をエアガンとして見せていたのだった。
 歩はその様子に小さく溜息を吐いた。




 




「これで理緒ちゃんもマネージャーとして入部してくれたし、軽音部も7名って、だいぶ増えてきたね」
「ああ。だけど良かったのか? 理緒たちだって何か楽器をすれば―――」
「ええ。まあ多少はギターとか弄るかもしれませんが、基本的にはマネージャーで」
「そっか」

 部活が終わり帰宅途中のメンバー。
 理緒と唯と律が最前列で会話していて、澪が相槌を打っていた。

 そんな中、突然に唯がうんうんと唸りだした。

「どうしよ~~~かな~~~~」
「どうしたんだ唯?」
「りっちゃん。理緒ちゃんのアダ名なんだけどね、りっちゃんと被っちゃうから悩んでるんだよ」
「そうですね。律先輩と理緒先輩で同じ『り』ですからね」
「アダ……名?」

 唯の言葉に、ヒクっと口元が引き攣る理緒。
 彼女はアダ名に関しては良い思い出がない。
  
 心なしか、彼女の後ろに『般若』が見える気がする歩だった。

「りおにゃん……りおん……ん~~、なんかしっくりこないなぁ」
「普通に理緒でいいんじゃないか?」
「え~~~~」

 澪の言葉に納得できないのか、不満な唯。
 そこで何か知ってるんじゃないかと歩へと振ったのは紬であった。

「ねえねえ、鳴海君は何かいいのない? 前の学校での理緒ちゃんのアダ名とか」
「!!」

 そこで過剰反応するのはやはり理緒である。
 だがその反応を歩は無視してからかおうとするが……。

「ああ、一部の連中から呼ばれてたのがあったな」
「ほんと!? なになに?」
「いろいろあるが中でも一番は、爆裂ロr――――モガモガ!」
「な~~~~んでもないですよね~~~~? そうですよね、歩さん?」

 後ろからぶら下がり、口を両手で塞ぎ般若化する理緒。

「爆裂?」
「ロ?」

 歩の言葉に首をかしげる唯や梓。まさか思いもしないだろう。
 その後に続くのが『ロリータ』などという言葉だとは。

「「…………」」

 そのやり取りを見ていた紬と澪は、何故か沈黙した。

「おっと、じゃあ俺と理緒はこっちだから」
「じゃ~~ね~~~」
「「また明日~~~~」」
「「また」」

 交差点で別れると唯たちとは反対方向、駅への方角に向かった。
 澪や律は同じ方向へと歩いていると、澪の無言の状態が気になったのか、律が澪に話しかけた。

「なあ、澪。何かあったのか?」
「え?」
「さっきから変だぞ? なんだか難しそうな顔してるし」
「ああ…………前も話してたけど、私たちって鳴海君のこと知らないなぁって」
「そのことか」
「うん……」

 チラリと律が横目で見ると、澪は眉間にしわを寄せていて、なんだか拗ねているいるように感じる。
 こんな澪を見るのは、幼馴染の律としては初めてみる顔だった。

「……それで理緒が入部して、仲良くしているところを見て納得いかないって?」
「!!」
「でも理緒の方が鳴海君と早く出会ってるんだから、当然といえば当然だろ?」
「そうなんだけどさ……」
「軽音部仲間としては私たちの方が早いから、どこか納得いかない、と」
「うん……」

 確かにそれは少しは分かるかなぁ、と律も漏らす。
 一緒に練習し、一緒に同じ曲を聴き、奏で、意見を交わし、共に同じ時間を過ごした。

 それは、律としてもとても楽しかった。

 思い返せば、青春してるかもなぁと思ったりもする。
 いわゆる仲間意識ってやつかも、と心の中でつぶやいた。

「ま、これからも長い付き合いになるんだから、そう深く気にする必要もないって」
「そうだな」

 律の言葉に頷く澪。
 そう。まだ高校卒業まで1年以上もある。
 そして大学に入ってもまだ続いていく可能性だってあるのだ。

 そう、言い聞かせて納得させた。

 だが澪は知らなかった。

 歩に残された時間は、少ないという事を。 
 そしてこの時、律が寂しそうな顔を浮かべていた事を。






 

 完全に日が暮れた時間、平沢家では憂がエプロンを片手に、

「それでね、理緒ちゃんが入部したんだよぉ」
「へぇ~~。良かったね、お姉ちゃん」
「うん!」

 等と会話をしていた。姉である唯が居間でゴロゴロと転がっていて、妹の憂がキッチンに立つという、なんとも微妙な光景かもしれない。
 しかし平沢家ではこれが当たり前の光景であった。 

「もうねぇ、小さいんだけど可愛くて~、温かくて~、リスみたいで~~~」
「リ、リスって……」

 唯の例えに頬を引き攣らせる憂。
 ケーキを頬張っていた理緒を思い出し、うっとりする唯は悪気はまったく無いようだ。

「ぬくぬく~~~」
「ハハハ」
「リオちゃんぬくぬく~~~、鳴海君もぬくぬく~~~」
「え?」

 ゴロゴロ転がりながら微妙~な発言をする唯に、憂はピタリと手を止めて唯を凝視する。

(お姉ちゃんのことだから深い意味はないんだろうけど……もう、ややこしいなぁ)

 やれやれと溜息を吐いた。
 ふと、自分の胸元を見る。

(なんだろう……この感じ。嬉しい? ううん、不安?)

 何かを掻き立てられるような、焦燥感のような、何か。
 得体の知れない何かが胸に膨れ上がってくる。

「お姉ちゃん、ご飯はもう少しかかりそうなんだけど」
「あ、そうなんだ。なら私は…………ギー太~~~~」

 ギー太に近寄った唯は、ギターケースから相棒のギターである『ギー太』を取りだし、肩に掛けた。

「ん~~~」

 それから『ふわふわタイム』『ふでぺんボールペン』など、彼女たちのオリジナル曲であった。
 完成度を高める為に、何度も何度も同じフレーズを練習する。
 そして苦手なコードの練習に入ると、ちょうど憂も夕飯の支度を終えたようでテーブルに料理を並べ終え、唯の向かいに座った。

「ん~~~」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「えっとね、鳴海君みたいに上手く弾けないなぁ……って」
「鳴海さんのようにって……あずさちゃんみたいに、じゃないんだね」
「ううん、もちろんあずにゃんも上手だよ。すっごく」

 だけどね、と唯は続ける。

「鳴海君のは……なんて云えばいいのかな。こう……そう、普通じゃないんだぁ」
「?」
「鳴海君がピアノを弾いてるとね、絶対にミスすることは無いって断言できる位に安定してるの」
「へ~~~~」
「凄いよねぇ。私も同じくらいに、こう、目を瞑ってても弾けるくらいになりたいなぁって」

 じゃらららぁん、と言いながら、ピアノを弾く素振りを見せる唯。
 憂はクスッと笑って提案してみた。

「じゃあ、鳴海さんにお願いしてみたら?」
「ふぇ?」
「どうやったら上手に弾けるようになるんですかって、聞いてみたらいいんじゃない?」
「う~~ん。でもでも、練習しろって云われるだけのような気が……」
「うん。それなら一緒に練習して教えてくださいって頼めばいいんじゃないかな」
「…………おおっ!」
「鳴海さんってそういうお願いって断りそうにないっていうか……そんな気がする」
「分かった! 明日、鳴海君に聞いてみる!」
「うん!」

 じゃあご飯食べよ、と2人は笑って食卓に着いた。



 

 とあるほのぼの姉妹がそんな話題を繰り広げている中。
 理緒と歩むは未だに帰宅途中であった。
 理緒と歩は住んでいる町が一緒であることから、必然的に同じ電車内、同じ方向になる。

 電車から降り、街中を歩く。

 既に辺りは暗くなり、駅前周辺は小売店の店の明かりや街頭などが明かりを灯し、帰宅途中のサラリーマンの男性が行き交っていた。
 2人はそんな中、並んで歩いていたのだが、理緒が突然手を握ってきた事により足を止めた。

「な、何を……」

 驚く歩。
 それは当然だった。
 ただ手を握るならまだ話はわかる。
 しかし、彼女は歩の片手を包むように、両手で握ってきたのだから。そしてその手を額の前に持ってきて、祈るようにくっつける。

「お願いです…………生きるのを諦めないで下さい…………」
「…………」
「貴方が生きる事が私たちの道標になる? そんな理由で生きないでください。私たちは既に貴方に世界から生かして貰うきっかけを戴き

ました。ならば私たちはあとは己の力で生きなくてはなりません。いえ、そうするべきなのです」
「…………」
「だから貴方は……自分の為に、未来を生きてください」

 その声は震えていた。
 理緒は今の歩が信じられなかった。

 現在の歩が、何を支えに生きているのか、さっぱり分からなかったから。

 己の絶望を唯一理解できる半身とでもいうべき悪魔の弟を、自らの手で手放した。
 己の出生ですら否定し、両親にすら否定され、そして最後の最後まで信じていたはずの相棒にすら裏切られた。

 その果てに得たものは、数年の時間だけ。

 それで何か変わっただろうか。そこに希望はあるのだろうか。

(ひよのさん……貴方はそれでもこの人を裏切って……!)

 ギリっと唇を噛みしめる。
 神である清隆が用意した、歩を追い詰める最後の切り札。

 それは歩をずっとサポートし信じてきた相方の、裏切りという名の一手。
 これまで彼女が見せてきた言動も、表情も、その気持ちも、全ては清隆から依頼されたから行った偽りのものだった。

 それは想像以上の刃となり、この目の前の人を傷つけたことだろうと、理緒は思っていた。
 何故それに耐える事ができたのか?
 何故、その憎しみに耐えて清隆を殺さなかったのか?
 どうして、どうして、どうして。

 理緒の卓越した頭脳は、それでも歩のその時の行動が、理由が理解できなかった。

 立ち止り手を握って縋るような大勢の理緒と驚き戸惑っている歩の2人の傍を、通行人が訝し気に通り過ぎていく。
 2人はとても目立っていた。

 まあ、路上で『少女』が青年の両手にしがみ付いて祈るようなポーズを取っていれば、不審がられるのも当然なのだが。

 だが歩や理緒からすればそれどころではない。

「なあ、ブレードチルドレン・竹内理緒」
「…………ふぇ?」

 いきなりフルネームで呼ばれて、理緒は埋没していた思考から起き上がる。

「兄貴と結構長いこと一緒にいたアンタならいろいろ俺の事を知っているんだろうけどさ」
「…………はい」
「今のアンタからすれば、現在の俺は理解できないんだろうけど、それでも……」
「…………」
「それでも昔より、今の自分を大切にしているよ」
「!!」

 歩の言葉は、理緒に動揺を与えた。
 その瞳がグラグラと揺れ、どんどん潤んでくる。

「…………ひよのさんが居ないのに、ですか?」

 理緒の言葉に若干だが歩はうつむく。
 その様子をジッと理緒は見つめていた。

「ああ、そんな名前だったっけか?」
「へ?」
「悪いが俺は名前を覚えるのは苦手なんだ。今の今まで忘れていた」
「…………」

 ポカーンとする理緒に肩を竦めてみせる歩。
 ちょっと酷い、と思った理緒であった。
 もちろん、本気か本気でないかとは別にして。

「ラザフォードや土屋キリエに何を吹き込まれたか知らないが、あいつが兄貴のスパイだった事は、最後の対決のずっと前から気付いてい

たぞ」
「なん……ですって!?」
「だから心の整理もつけていた。故に兄貴の挑発にも乗らなかった。動揺もしなかった」
「…………」

 嘘だ。
 理緒は直感でそう感じた。

 動揺したはずだ。傷ついたはずだ。それなのに耐えられたのは、この人は何を支えにしていた?
 理緒はそう問い詰めたかった。

 だが歩はそんな彼女に気付かずにこんな事をのたまった。

「それに今は、俺はやりたいことをやってるしな」
「そう……なんですか? 軽音部なんてやってるのに?」
「ああ。あいつらのヘルプに入る価値はある」

 歩はくしゃりと理緒の頭を撫でた。

「随分と後押しされた気がする。素直に音楽を楽しんでいる平沢、田井中、寿吹、秋山、中野。俺もそんなあいつらと関わる事で、再びピ

アノをやりたくなってな」
「ピアノを…………」
「昨日も協会に行って、報告してきたところだ。今度のピアノコンクールから復活するって」

 その言葉に理緒は衝撃を受けた。
 まさかそこまで立ち直っていたなんて、と。

 しかしそこで騙されないのが、理緒というどこまでも頭がキレる女性だった。

「で、でも! そんな精神的にも肉体的にも負担がかかる世界に戻ったら!」
「ああ。間違いないだろうな」

 仮に何もしなかった場合、二十歳まで生きられたとしよう。
 だがこの世界に戻った場合、身体がどんどん弱る自分は、それでもきっと無茶をし続ける。故に寿命を縮めることになるだろう。 

 そんな事は分かっていた。

「体内の臓器は、これからどんどん弱っていく。俺はそれでもピアノを引き続けるだろう」
「!!」
「そしてその結果、俺は死ぬんだろう。だけど安心もしている」
「安心?」
「ああ。今アンタが言った通り、ブレードチルドレンのみんなはそれぞれが自分自身の手で自分を救ってやるしかなく、そしてそれができ

るとも信じているからな。なんの心残りもないというのは安心さ」

 少し前から感じていた死への恐怖は、この時だけは隠した。
 嘘を、ついた。

「…………」
「だけど軽音部の事は心配だ。特に平沢だな」
「……へ?」
「あいつのお気楽思考は心配だ。このままじゃ、いつか騙されるのがオチだぞ」
「いや、あの……」
「よって俺が徹底的に鍛えてやるさ。それに秋山も心配だな。あのあがり症は重傷だ。中野もしっかりしているようで危うい。一番安心な

のは寿吹だがやはり心配だ。田井中は精神的に一番強そうに見えるが意外と脆いというのが俺の見解だ」
「ハッキリ言いますね、歩さん」
「言っただろ? 俺は酷い奴なんだ。だからあいつらの面倒もしっかり見ていくさ。
 アンタもマネージャーとして入るなら、頼んだからな」
「はぁ……分かりました!」

 歩が“本音を言わない”ことに少し憤りを感じつつ、承諾する。
 怒ったしぐさを見せるのは、せめてもの抵抗か。

「私も明日からマネージャーとして入りますから!」
「ああ。アンタがいてくれるなら、俺も安心だ」
「! ~~~~~~~~」

 ポンポンと手を頭に乗せてくる歩に理緒は顔を赤らめつつ、自分の扱いに文句を言うことにした。

 私は怒っているんです、という芝居を打ちながら。



 つづく。


 PSP『けいおん』最高♪
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ありむんの小話 * Com(4) * Tb(0) * page top↑ * [Edit]
コミケお疲れ様でした~~ 
2010 / 08 / 17 ( Tue )  23:44
初参加となった、今年のコミケ。


当・サークルHPで情報を知り、購入して戴いた方、ありがとうございました!
手にとって読んでくれた方、ありがとうございました!

予想よりも遥かに買ってくれて、めちゃくちゃ嬉しかったですよ~~~!

実は近い内にやるイベントで、今回の本も再度出しますので、寄られた方は是非ともよろしくです。



さて、今回のイベントの裏話的なものを。
とりあえず無事に出店でき、また本もきちんと販売できました。
お釣りなどが無いとか、そういったミスも特に無く。
後は、もうちょっと飾りとか作りたかったですね。それが今度の課題です。


そして自分の話。

今回のお話は、所謂「アフターもの」な訳ですが。
枚数制限がある中、原作を務めるのはとても難しかったです。
どれくらいの量を書けばいいのか、短くないか、長すぎじゃないか、などなど。
いろいろと反省点があり、だけど今度はもっとライトな内容にしたいと思います。



ふと、私の「けいおん!~スパイラル~」の内容で外伝的な感じで、
小説のコピー本を出せないかなぁ、と考えつきました。

内容としては、

・本編では出さないつもりの『結崎ひよの』を登場させ、歩を巡っての恋騒動。
・それぞれのキャラクターと『未来で結婚』した時の新婚模様を全キャラ分でショートストーリー集。

などなど。
本編ではまだカップリングも出来てないし、その兆候もあって無いようなものですが、外伝でニヤニヤできるかもなぁ、と企んでます。

いえ、ただ自分がニヤニヤしたいだけなのですが(笑)
とまあそんな事がやりたいなぁ、と考えてはいますが実現は難しい、くもないかもしれません(どっちだ


話が脇道にそれましたね。
とにかく、今回はありがとうございました。

今後とも、良いお話をつくれるようにがんばっていきます。
では、またの機会にお会いしましょう。
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第9曲 妖精は未だ神に会えず 
2010 / 07 / 29 ( Thu )  01:25









「・・・・・・・・・・・・」

 一軒家から見渡せる街並み。
 朝靄がかかった展望を、歩は見詰めていた。

「・・・・・・・・・・・・」

 昨夜のライブ初成功を祝して、平沢唯の自宅にて行われた宴会、もとい祝勝会。
 男の自分が女性宅に入るのも宴会に加わるのもどうかと思う歩。
 結局は、満場一致で却下されて問答無用で連行されたのだが。

「・・・・・・ついに、始まったか」

 胸元に手を当て、ボソリと呟く歩。
 己に科されたタイムリミット。その兆候がついに明るみに出た。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっかく、決めたばかりなんだがな」
 
 がんばろう、そう思ったばかりの事だった。
 なんとも自分らしい愚かしさだと思う。
 肝心なことはいつも出遅れ後悔する。やはりそう簡単に人というのは変わらないのだ。

「あれ? 鳴海さん? 早いですね。もう起きてたんですか?」
「ああ、平沢さんか。おはよう」

 窓を開けてベランダに出てきたのは憂。
 エプロン姿で出てきた格好を見ると、これから朝食を作るのだろう。
 そこで憂は、歩の目の下に微妙に隈が出来ていることに気がつき驚く。

「もしかして一晩中起きてたんですか?」
「ああ。いろいろあったからな。眠れなかった」
「そうですよね。お姉ちゃんたちのライブ、大成功で良かった~~~」

 眠れなかった理由がライブ成功による興奮だと勘違いしたらしい。

「当事者であるお姉ちゃんたちは、ぐっすり眠っちゃってますけど」
「そうだな」

 こたつで死んだように眠る5人と顧問の教師のことだ。
 くすくすと憂は笑い、歩の横に来る。
 朝日を見て、憂がキレー、と声を上げた。歩はそんな彼女を見詰め、思わず言葉を洩らした。

「なあ、平沢」
「はい?」
「やりたい事があったとして、でも行うには既に遅かったとしたら・・・・・・どうする?」
「え? えっと、よく意味がわかりませんが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん~~、そうですねぇ。私だったら・・・・・・遅くてもやると思います」
「それが中途半端で、無様な結果しか出せないとしても?」
「はい。だって」

 歩へ振り返った憂の答え。
 それは彼女にとって大好きな姉のお世話をすることであり、それをこれからやるとしたら、という事に対しての答えでもあった。



 ――――やりたい事なんですから



 至極単純で、でも難しい。その解に至るのも、そして自らの言葉でそれを口にするのも。
 歩は憂の笑顔とその言葉に、全身に風が吹き抜ける感覚を得ることになった。

 そして。

「そうだよな」

 朗らかに笑った。

「強いな、平沢は」
「そうですか? でもでも、私がそれをしたら、お姉ちゃんはきっと笑ってくれると思うんです」
「・・・・・・平沢のやりたい事って、姉を補佐することなのか?」
「はい!」

 自分達兄弟には無縁の感情だなと苦笑する。
 彼女のその一点の曇りの無い笑顔に、歩は自然と微笑む。その笑顔はあまりにも自然で。
 彼がずっと昔に、失くしたもの。

「そうか・・・・・・優しいな、憂は」

 頭の上にポンっと手を置き、クシャクシャっと撫でる。
 それは彼にとって無意識に出た行動であった。特に他意はなく、爆弾事件の時の竹内理緒にしたように、撫でただけ。

「ふぇぇぇぇ!?」

 ボンっと頬を赤らめ、歩を見上げる憂。
 突然名前を呼ばれた事に驚き、そして手の温もりに驚く。

 だがそんな憂の反応に気付かず、歩は彼女に感謝した。

「ありがとう、憂。俺も・・・・・・精一杯生きるさ」
「? ・・・・・・は、はい」

 その言葉の意味を、憂は分からなかった。
 そして彼女はその言葉の意味を、後に気付くことになる。

 彼女は歩の言葉を思い出し、そして・・・・・・。

 ただ今は、元気になった歩に対し憂はただ嬉しかった。





 





「ねえ、鳴海君は今日は来ないのかなぁ?」
「さぁ・・・・・・?」
「気付いた時は、もう教室にはいなかったな」

 翌日の軽音部部室に集まっていた唯たちは、いつも通りお茶を楽しんでいた。
 少し疲れが残る彼女たちは若干だらけ気味だ。
 しかしいつも居る男の子の姿が何時まで経っても見えず、彼女たちは戸惑っていた。

「昨日のライブが成功したのも、鳴海君のお陰だったのになぁ」
「そうだよなぁ。タイムテーブルとか何を書けばいいんだって話だし」
「私達は歌えばいいだけだったものね」
「CDも販売されてました」
「そうだったな・・・・・・私達の練習も、ずっと見ててくれたし」

 澪がしみじみ呟く。
 初ライブのあの瞬間。頭が真っ白で観客の目が怖かったの瞬間。
 律のドラムの音が耳に飛び込んできた時に自分の手は自然と音律を奏でていた。

 ライブハウスの最後方の壁に、歩が寄りかかって自分達を眺める姿を発見したときは何故か安心した。
 そしてジーンと胸の奥が暖かくなったのも感じた。可笑しな話だが。

「そういえば・・・・・・」

 なんの脈絡もなかったが、澪は気付いた。

「どうしたの、澪ちゃん?」
「いや、私って鳴海君のこと全然知らないなぁって」
「そういえばそうだなぁ」

 澪の言葉に律も同意する。
 そして自然と皆の視線は紬に集まる。

「私も知らないの。鳴海君がピアノをやっていたってことしか」
「あの、私ネットとかで調べたことがありますよ」

 意外にも梓がそう言った。
 おおっ、と関心した声が上がる。

「ネットでは、鳴海先輩のピアノの成績が主な情報でした。他には鳴海先輩のお兄さんのことくらいです」
「ん~~~~~、真新しい情報はないなぁ」
「そうだな」

 律と澪が頷く。
 意外かもしれないが、実は唯ですら知っている情報だ。
 ピアノ界でも神話となっていて、崇め称えられている凄腕の人であり、警視庁では名刑事として君臨する兄を持つということ。
 この情報を聞いて思ったことは、皆が一緒であった。

 兄弟揃って凄いなぁ、ということ。

「そういえば、昨日さ、鳴海君のお姉さん来てたじゃん。綺麗な人だったよな」
「はい。とても」

 律の言葉に梓が頷く。
 ライブ終了後にまどかを紹介され、皆は綺麗なOL女性の体現者とでもいうべきまどかに赤くなった。

「さわ子先生も綺麗ですけど、お姉さんはキリっとしててかっこよかったです」
「なんとなくだけど、澪ちゃんに似てるよねぇ」
「わ、わたし!?」

 紬がポーっと頬を赤らめて言えば、唯が突拍子もないことを口にする。
 澪は唯のあまりにも予想外な言葉に目を丸くして驚いた。

「まあ、そりゃあ私もあんな人になりたいなぁ、って思うけど」 

 澪がブチブチと呟きながら紅茶を飲み、おかわりをして再度口をつけた瞬間だった。
 ガチャっと扉が音を立てて、扉が開いた。
 
「こんにちわ~」
「「へ?」」
「んあ?」
「誰ですか?」
「どなたでしょうか?」

 それぞれの奇声が誰かは想像して欲しい。
 視線の先に居たのは歩ではなく、1人の女子生徒だった。

 この中の誰よりも背が低い。
 しかし印象的なのはその眼光の強さ。可愛らしい容姿よりもその瞳の方が印象的というのも不可思議な話だった。
 その少女は小さくお辞儀をして、皆へと挨拶した。

「どうも初めまして。本日、この学校に編入してきました『竹内理緒』です。よろしく!」








「へぇ~~~、鳴海君と前の学校で一緒だったんだぁ」
「はい。プライベートでもよく遊びましたし(爆弾的な意味で)、清隆お兄さんとも仲良いんですよ」
「「ほほ~~」」
「親の事情で引っ越して付近の家に住んでるのですが、編入した学園に歩さんがいると聞いて驚きました。それで挨拶に、という感じですね」

 思いっ切り猫を被っている理緒。
 歩と出会った頃のように純粋な少女を演じる彼女は、小さな身体と相成って可憐である。

「あずさとは違うクラス、なのか?」
「え? 私のクラスには編入生は来ませんでしたが・・・・・・」
「という事は、あずさとは違うクラスなのか」

 澪がう~む、と唸る。梓自身も今朝からの記憶を辿り、どこかのクラスに編入生が来た云々の会話が無かったか探る。
 そこでふと妙な視線を感じた。

 理緒が澪と梓をジトーっと睨んでいたからだ。

「え? え? ど、どうかした?」
「え、えっと・・・・・・」
「・・・・・・私、2年生ですけど」

 突然ニコニコしていた可愛らしい少女にジト目を向けられた澪は慌てる。
 理緒は理緒で本当はさらに一つ年上なのだが、言われ慣れているとはいえやはり腹が立つ。
 そんな理緒の言葉にビシリと空気が固まり、唯や律がぎょっとした顔をする。

 どうやら彼女たちは皆、理緒の事を梓と同じ1年生だと思っていたようだ。
 唯たちは必死に謝り理緒のご機嫌を取る。

 理緒は、ハァ、と大きな溜め息を吐いて、本来の目的を果たす事にした。

「それで、歩さんはどこにいるんですか?」
「えっと、鳴海君なら今日はまだ来てないよ~~」

 唯がそう答えると、理緒はそうですかと呟いて考え込む仕草を見せる。

「今日は来ないかもしれないぞ」
「そうね。いつも私達と一緒に来てたけど、今日は最初からいなかったから」

 律と紬もそれぞれ自分の考えを口にし同意する。

「よし、じゃあ直接聞こうっと」
「「「「「!!」」」」」

 そして目の前で携帯を取り出し、歩へと電話をかける理緒。
 実は軽音部のメンバーは、誰も歩の携帯番号を知らない。

 男の子という要因もあるし、聞くタイミングが無かったというのもある。
 過去に女子中だったという要因もあり、突如男の子相手に聞くというのも、彼女たちにとっては慣れていない限り難しかった。

「あ、もしもし? 歩さんですか? 私です。理緒です。今大丈夫ですか・・・・・・って、弟さんっていうより良いじゃないですか。
 ええ。久しぶりですね。今どちらにいるんですか?
 私、今日桜ヶ丘学園に転入したんですよ。え? ええ、そうです。それで軽音部部室で皆さんに聞いて電話してるんですが。
 あ、今日は来ないんですか? そうですか。分かりました。また明日会いましょう」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 ―――――ピッ。

「どうやら今日は用事があって来ないようです」
「そ、そう」

 澪が何故か機嫌が眉を顰めて返す。その反応に理緒は目を細め、そして小さく微笑み席を立った。
 ペコリと小さくお辞儀をする。

「では、また明日こちらに伺いますね」
「そ、そっか」
「はい、部長の田井中律さん。恐らく、私も入部すると思いますので、その時はよろしくお願い致します」

 そう言って、出て行く理緒。
 彼女がいなくなってから、5人の彼女たちは一斉に顔を合わせて、

「「「「「「ええぇぇ~~~~~~~!? 入部~~~!?」」」」」

 いきなりの新入部員獲得と、嵐のように現れて消えていった少女に、彼女達はついに絶叫を上げたのだった。










「本当にいいのね、歩」
「・・・・・・・・・・・・」

 歩の後ろにいるのは、保護者となっている鳴海まどか、鳴海清隆の2名。
 今現在、歩がいるのは日本ピアノ協会の建物の前であった。
 理緒からかかってきた電話の直後で、彼女が軽音部に入部したと聞いて頭を抱えた歩であったが、すぐに気を取り直した。

「・・・・・・・・・・・・ああ」

 歩は久しぶりに見る協会の建造物を仰ぎ、小さく頷いた。

 清隆は歩の心境の変化を、そして彼が何を考えているのか、見透かすかのように目を細める。
 清隆はこの歩の変化を嬉しく思うのと同時に、実は反対であった。

(間違いなく『これ』をすれば歩への負担は大きくなり、寿命を縮めるだろう)

 しかし反対することはできない。
 彼はあらゆる意味で、反対できる立場にはいなかった。

 だから清隆は『ソレ』に至る為の条件を再度確認の意味で口にする。

「分かっているな、歩」
「?」
「期間は短い。1週間後の関東ピアノコンクールで優勝し、一ヶ月後の本選の全日本ピアノコンクールで優勝するんだ」
「ああ。分かってる」

 その2つの優勝を手土産にすれば、自分は復活の狼煙を上げられる。
 そして2年のブランクに対して、協会の人間は誰も文句をつけることはできない。

 そうすれば。




「世界3大ピアノコンクールの一つ、

 ―――フレデリック・ショパン国際ピアノコンクール―――に出場できる」




 歩の決意に溢れた言葉に、まどかは心配そうに声を出した。
 彼女の声は震えていた。

「でも歩・・・・・・あんたは・・・・・・」

 まどかは歩に己の身体を大事にして欲しかった。
 でも彼の気持ちを大事にしたかった。
 彼の身体に負担をかける事はなるべく避けたかったのだ。

「義姉さん」

 そんなまどかの声を遮り、歩は振り返って小さく微笑んだ。

「俺は、ショパンコンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際コンクールを全て制覇する」

 それを達成したい。
 するべきだと、歩は誓った。

「それが、俺が生きた証であり・・・・・・あいつらと共に生きていると、誇れると思うんだ」

 そして何より。

「俺が・・・・・・やりたい事、だからな」

 それが、彼女たちから学んだことだった。






 この日、1人の日本人ピアニストが現役へと復帰の狼煙を上げた。
 それは長い間、日本の引率者というべき頂点の人物を失っていた日本ピアノ協会にとって狂喜乱舞する程で。

 天使の指先の復活は、あっという間に関係者へと知れ渡った。









 憂がヒロインと決まってはいません(笑)
 つーか、17話最高でした。これはこの小説に応用できるなぁと、企むこの頃。
ありむんの小話 * Com(5) * Tb(0) * page top↑ * [Edit]
第8曲 初ライブ 
2010 / 07 / 10 ( Sat )  14:56






 皆さん、こんにちは。平沢憂です。
 なんと今日はお姉ちゃんたちの初ライブの日なんです!


 お姉ちゃんたちは既にライブハウスへ出発していて、私も純ちゃんと和さんと合流するだけです。
 私の方がドキドキしてますが、お姉ちゃんはとても楽しそうでした。
 ―――緊張しないのかなぁ。


「行ってきま~~~す!」


 なにはともわれ・・・・・・・・・・・・とうとう本番です!











「こんちは~~~~~、って、ひゃわ!?」
「「「「ひっ―――!?」」」」

 ライブハウスの扉を開けると、そこに広がる光景は5人には刺激が強いものだった。
 真っ赤に染めた頭、スキンヘッドのようなヘアースタイル、毒が強い色で染めたスタイル。

 相手を威嚇するような眼光。それを助長させるトレーナーにツナギのスタイル。サングラスをかけていたり、ガムを噛んでいたり。

 そんなバンドグループたちが蔓延る空間に突入してしまった唯たちは、青い顔をして扉付近で硬直した。
 ギロっとした視線が唯たちに集中する中、意外にも彼女たちの緊張を解いたのは、原因となった彼女たちであった。

「こんちわ~~~~」
「おはよ~~~~~」
「よろしく~~~~」

 あちこちから上がる声。男も女も大勢いる中、皆が澪たちに挨拶をしてきた。

(((((おおおおおおおおおおおおおお)))))

 ホッとした安堵と妙な感動の声を上げる律たち。
 そんな中、律たちに声をかける人物がいた。

「あれ、りっちゃん? 澪ちゃんじゃん!」
「? ・・・・・・・・・・・・あ、まきちゃん!」
「あ・・・・・・久しぶり」

 駆け寄ってきたのは、律と澪の共通の知り合いであり、中学の頃の同級生。
 トレーナーにつなぎ姿で統一した一段の中から駆け寄ってきた、少しウェーブがかかった少女。
 彼女と仲良く話す律と澪に、目を丸くする唯と梓と紬。

 彼女は澪たちよりも早くにバンド活動を始めていて、既にライブの経験も場数をこなしていた。
 実は彼女は、今度律たちを誘おうと決めていたので、いきなり現れた澪たちに驚いていた。

「今回はよろしくね、2人とも」
「いや、こっちこそよろしく。私達、初めてだからさ」
「そうそう。あ、紹介する。こっちがギターの平沢唯、同じくギターの中野梓。キーボードの寿吹紬」 
「私、ラブクライシスのまき。よろしくね」
「よろしく~~~~」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします~~」

 とりあえず挨拶を交わす唯たちであったが、その直後に集合してひそひそ話しを始めた。

「ラブクライシスだって! カッコイイ~~~」
「私達の名前、ちょっと可愛すぎかもしれませんね」
「そうかしら?」
「ティータイムだもんねぇ」
「私は良いと思うけど・・・・・・」

 どうやら自分達のバンドグループ名に、少し疑問が沸いたようだ。
 少し頬を赤らめているところから、若干恥ずかしかったのかもしれない。

 更に言えば、今の唯たちの格好は学校の制服。
 他の人たちは私服であり、それぞれの個性を表した格好であった。

「そうそう。ちょっと聞いてよ皆」
「ん? なに?」

 まきが思い出したように手をポンっと叩き、唯たちに話しかけてくる。

「さっきね、凄いイケメンが来たんだ。超カッコイイの。どこの芸能人かって感じ」
「へ~~~」
「ん? ・・・・・・?」
「ほら、アソコ。受付で書類手続きしてる彼」
「・・・・・・・・・・・・・・あ」

 全員の視線が歩へと集中する。
 梓は気がついた。周りを見渡せば、誰もが歩をちらちらと様子を伺っている。

(良くも悪くも、凄く存在感ある人だもんね・・・・・・カリスマ性って言えばいいのかな)

 思わず納得する。そんな人が自分達のマネージャーをやっているのだ。
 奇妙な感覚だった。

「よう。来たか」
「って、知り合い!?」

 歩が澪たちに気付き、片手を挙げて近づいてくる。
 そんな態度にまきと呼ばれた子がすっとんきょうな声を上げるので、梓としては苦笑するしかない。

「手続きは済ませておいた。後は開始前のリハーサルだけだ」
「ありがとう、鳴海君。さすがマネージャー。仕事が早い」

 澪がそう言うと、歩は小さく微笑み頷く。

「あ! 見てみて! カッコイイなぁ。凄いなぁ。CDがあるんだぁ」

 唯が反応したのは、受付の傍にあるCDだった。
 それはバンドグループが個人的に作り、委託販売している商品。
 唯はおお~~、と声をあげるが。

「その横のものを見ろ、平沢」
「ほえ?」
「自分達のもあるだろ」
「「「「「ええええぇ!?」」」」」

 物凄い勢いで駆け寄る一動。手にとって見ると、確かに『放課後ティータイム』とロゴで描かれたCDがある。
 バックグラウンドには楽器がモノクロ調に展示され、いかにも年代モノのように映っているが、それが自分達の愛用の楽器だということに気付く。

 裏面を見ると、そこには『ふわふわタイム』と書かれ、表面とは違ったシャボン玉の模様で細かな情報が書かれている。
 URLからメンバーの顔が見えない後姿でポーズをとってる姿など。
 何時の間に撮られたんだと梓は思ったが、普通に写真は遠足時の写真や、部室での後ろ姿などを加工したものだ。

「な、なんか感動・・・・・・!」
「は、恥ずかしいっ!」

 対照的な反応をする唯と澪。
 恥ずかしがる澪に肩をポンポンと叩いて「顔は出してないから安心しろ」と優しく言う歩。

「おおおおおお、私達のCD!」
「か、感動です!」
「う、嬉しいんですけど、鳴海先輩の仕事が早くてそっちの方がビックリしてます」

 律はプルプルと震え、紬が目を光らせて律におぶさりながら喜びを表現する。
 梓は頬を紅潮させているが、作るとは聞いていたCDが何時の間にか販売までこぎ付けられている事態に驚いていた。

「それの発売事態は昨日の夜からだ。だから売り上げもまだまだだな。今日のライブでしっかり宣伝することだな」
「うぉおおおおし!」
「気合はいいから、楽屋に行くぞ」
「楽屋!?」
「楽屋って、暖簾とか掛けて「まいど!」って言ったりする!?」
「言わないですって、むぎ先輩」

 なんとも独特感漂う会話に、ライブハウスマネージャーの女性は苦笑しながら楽屋へと案内した。
 まきは「いいなぁ、マネージャーがいるんだ」と声を洩らした。

 どこのグループでもそうだが、何からなにまで自分達で探し、申請し、理解し、行うことは想像以上に手間と労力がかかっていたので、有能と見受けられたマネージャーがいる、しかもイケメンな男性がいる律たちを羨ましがったのであった。









(なるほどねぇ・・・・・・これが『放課後ティータイム』か)

 事前に少年によって提出されたタイムテーブルに従い、スポットライトやらミラーボールやらが変わる様に逐一反応し、その度にリハーサルであるはずの演奏が止まる、またあわあわと慌ててボロボロな放課後ティータイムの面子。

 ライブハウスのマネージャーの女性は興味深そうに見詰めていた。

 数日前から訪れ、自分と議論を重ねて驚く程のペースで『こちらの業界』の常識に対応してきた少年。
 自分から見た限り、実に放課後ティータイムのメンバーに適応したタイムテーブルをあっという間に仕上げて来たと思う。
 それの証拠に、先ほどから彼女たちは不平不満を全く述べていない。

 そんな少年は慌てふためく彼女たちに呆れたように溜め息を吐き軽く肩を竦めているが、口元が僅かに緩んでいるのは見間違いじゃないだろう。

(まさか“あの”鳴海歩がさわ子の教え子『放課後ティータイム』の子たちの傍にいるなんてねぇ)

 他のバンドグループの子は気付いていないようだ。
 もちろん自分が知っていたのはたまたまだった。そもそもクラシックとでは世界が大幅に違う。
 だが自分は仕事上の一環として、『音楽』の雑誌関連は一通りどの雑誌も目を通す習慣を身に着けていた。
 もちろん、流し見する程度だった。

 だがやはりどの世界でも、同じ日本人の、しかも絶大は評価を受けている人物がいたのなら、感嘆の声と共に記憶に残っていたのも当然だろう。
 もちろんすぐに思い出せた訳ではないが、しばらくして思い出したのだ。

(どういうつもりであの子たちの傍にいるか分からなかったけど、なるほどねぇ。ただの下手な子たちって訳じゃない訳か)

 不思議と魅力が溢れる演奏、それが彼女の評価であった。

「いつまでパニックになってるつもりだ~~~。本番はまだなんだぞ~~」
「そんなこと言ったって~~~」
「唯先輩、まだ続いてますよ!」
「はわわ~~~!!」

(・・・・・・・・・・・・大丈夫かしら?) 

 そこはかとなく不安になった。







 


「お姉ちゃ~~ん!」
「あ、憂!」
「来たわよ、唯」
「こんにちわ~~」
「和ちゃん、じゅんちゃんも。やっほ~~」

 本番の1時間前、ライブハウスの外で唯と歩は買出しに出かけていた。
 コンビニエンスストアから戻る途中、反対側からやって来たのは憂たちであった。

 チケットを唯たちから貰った憂たちは今日を楽しみにしていた。少しチケットを使うのが勿体無い、と憂は思っていたりもする。
 それぞれ挨拶を交わす中、唯は憂と純に腕に貼った『バックステージパス』を見せて、何故かその場でくるくる回っていた。
 そんな唯に苦笑していた歩に、和が近づいてきた。

「お疲れ様、鳴海君」
「ああ。そっちもよく来てくれたな」
「それはそうよ。唯たちの晴れ舞台ですもの」
「そうだな。愚問だった」
「皆の様子はどう? 唯は緊張してないみたいだけど、澪たちは?」
「あ~~~・・・・・・まあ、秋山は極度の緊張状態だな。皆も似たり寄ったりって感じだが秋山ほどではない。平沢が異色なだけだ」
「・・・・・・だよね」

 はぁ、と溜め息を吐く和。彼女の方が唯よりも緊張しているように見える。
 余程心配なのだろう。幼馴染にして親友が、正に実力でしか認められない学校外の場所で、一般人の人に聴いてもらう事が。

「まあ、大丈夫だろう」
「? なんでそう言い切れるの?」
「どれだけパニックになっても弾き始めたら嫌でも指が動く。そのようにこの2週間、徹底的にしごいて来た」
「そ、そう・・・・・・」

 そういえば妙に唯や澪がぐったりしていたような、と和は思い出して冷や汗をかいた。
 唯が呻き声で疲れただの、また弾くのだの、妙に呟いていたのはこの事だったのかと納得した。

「どれだけ緊張していようが必ず指は動く。どれだけパニックになろうが口は開く。そうなるように練習した。デビューがボロボロってのは悲しいだろ?」
「そう・・・・・・だね」

 肩を竦めながら言う歩に、和は頷いた。
 デビューの記憶は生涯について来るだろう。それが大失敗の赤っ恥でした、というのは悲しいと和も思う。

 それを考えると、和は歩に感謝しないといけない気がした。

「ありがとう、鳴海君」
「俺に言う必要はないな。あいつらも俺が言わずとも自主的にやるようになっていた。全てはけいおん部への愛情故か、ただ音楽が好きなだけか・・・・・・つまりはそういう事だ」
「そっか」

 なんだか嬉しくなった和は、満面の笑顔で唯を見ていた。

「お~~い! のどかちゃ~~ん、鳴海く~~ん。行くよ~~~!!」
「はいはい」
「前見て歩きなさい、唯!」

 ―――さて、ついに本番か。
 歩は元気一杯な唯を見守りつつ、夕焼け空となった茜色の空を見上げた。
 雲がまばらに点在する空は、とても高かった。










 ―――あぁ、カミサマお願い 一度だけのMiracle Timeください


(ったく・・・・・・本当に楽しそうに演奏しやがる)

 歩はライブハウスの一番後ろで壁にもたれながら、皆の雄姿を眺めていた。
 ときどき、皆と視線が重なり、その度に満面の笑顔で笑い返される。

「良い曲ね、歩。なかなか上手じゃない、あの娘たち」
「ああ」

 歩の隣にはまどかがいる。
 まどかも楽しそうに唯たちの演奏を聴いていて、小刻みに身体が動いている。
 誘って正解だったようだ。

(・・・・・・・・・・・・本当に、楽しそうに)

 アワアワと慌てふためいていた彼女たちだったが、既にステージ上ではその様子は見られない。
 ライブハウス内は意外なダークホースの登場に盛り上がっている。
 容姿的に優れた彼女たちだが、その演奏も盛り上がるには十分だ。
 初ライブは大成功と言ってもいいだろう。

 なのに。


 ―――もしすんなり話せればその後は・・・どうにかなるよね



(クソ・・・・・・・・・・・・)

 心の奥底で、喜んでいない自分がいる。
 嫉妬している自分がいる。
 ひがんでいる自分がいる。

「ありがとう、鳴海君。彼女たちのサポートをしてくれて」
「山中先生・・・・・・いえ、別に」
「ふふふふ」
「あ、顧問の先生ですか。歩がお世話になってます」
「いえいえ。こちらこそ――――」

 いつの間にか横にいた山中さわ子先生に目線で挨拶し、すぐに舞台へ目を向ける。
 ぺこぺこと頭を下げて挨拶するまどかとさわ子先生は完全に無視だ。

(中野・・・・・・梓・・・・・・)

 小さい体で、バンド内で唯一年齢が違いながらも技術的には一番上手い。
 だがそんな彼女は、先輩である彼女たちの事が大好きで堪らない、そう目が言っている。
 音楽が好きだと、全身で表している。


 ―――ふわふわ時間。


(田井中・・・・・・律・・・・・・)

 気分屋な彼女はドラムで暴走しがちだが、不思議と彼女たちの演奏とマッチしている。
 皆の様子を一番後方から見て、それぞれの演奏する姿に嬉しそうに頬を緩めながらテンションを上げている。
 このメンバーで演奏するのが、楽しくて仕方がない。
 そう、云っている。

(秋山・・・・・・澪・・・・・・)

 一番顔色が悪かった彼女だが、今は輝いている。
 額から零れる汗が彼女の笑顔とベースにコラボし、一枚の絵を形成している。
 そんな一番容姿が優れた彼女に、今、恐れるものはない。


 ―――ふわふわ時間。


(寿吹・・・・・・紬・・・・・・)

 バンド内で一番己を知る人物。そして自分に特大の衝撃を放った子。
 今でも彼女のピアノはもうやらないのか、という声と潤んだ瞳が忘れられない。
 優しい彼女は何か感じたのか、あれから突っ込んでこない。だが普段は何か聞きた気な態度を見せている。
 そして現在、彼女はその優しさを全く隠さず、その心をキーボードにぶつけている。
 故に、彼女独自の音が奏でられていて、放課後ティータイムの音質に厚みを与えている。


 ―――ふわふわ時間。


(平沢・・・・・・唯・・・・・・)

 何も考えていない、年中能天気な少女。
 己とは間逆のベクトルの少女。何も悩みなどなく、自由気ままに生きてきた彼女。
 だがそれを優秀にも己と声とギターに表現できている。
 技術は未熟でも、彼女が笑えば観客は歓声を上げ、彼女が振り向けば手を振って喜んでいる。

 どこか憎めない、そして力になってやりたいと思わせる放課後ティータイムのメンバー。
 だが自分はどうだろうか。

 今の自分は、彼女たちに相応しいのだろうか。

(いや、違う)

 共に、心の底から笑いあってみたい。
 何のわだかまりも無く、心の底から。

「皆、ありがと~~~~~~!!」

 演奏が終わり歓声に包まれる一同を眩しそうに眺める歩。
 今にも泣き出しそうな歩に、唯はその心情を気付かずに嬉しそうに手を振る。

「ありがと~~~~~~~!!」
(そう・・・・・・だよな。無意味なんかじゃ、ない、よな)

 歩も無意識に振り返した。
 嬉しそうに自分へと手を振ってくる5人が眩しい。
 唯へと微笑み、梓へと微笑み、澪へと微笑み、律へと微笑み、紬へと頷く。



 ―――そして、その瞬間はやって来た。



「ごほっ・・・・・・こほっ・・・・・・!」



 小さな咳が、出た。
 風邪などまったくひいていない、初期症状すらないにも関わらず。


 口元を押さえた歩の目は、大きく見開かれていた。
ありむんの小話 * Com(7) * Tb(0) * page top↑ * [Edit]
第7曲 爆裂ロリータ 
2010 / 06 / 15 ( Tue )  22:39








「歩、郵便が届いているぞ」
「ああ、ありがとう」
「ねえ歩。これ何?」
「今度、軽音部が参加する『秋祭り前夜祭』のライブ登録書だ」

 歩は封筒を開け、事前の審査が通った旨が記載された文書を眺めた。
 

 ――――結果は合格。


「良し。合格だ。これで軽音部は2週間後のライブに参加できるな」
「そう・・・・・・ねえ、私も行って良い?」
「それなら私も―――」
「姉貴は良いが、兄貴はダメだ。来るな」

 ガーンとショックを受ける清隆を無視する歩。
 まどかは嬉々として前夜祭ライブのパンフレットを眺めた。











「という訳で、3日後に打ち合わせがあって、ライブ本番は2週間後の土曜日、当日の3時間前からリハーサルがあるから」
「「「「「おお~~~~!!」」」」」

 歩の言葉に、一同の歓声が響いた。
 初ライブというだけに、興奮も最高潮といったところか。

「りっちゃん! ライブだよ、ライブ!」
「フッフッフ。ついに私達の時代が来たかぁ!」

 鼻息を荒くする唯と律。

「人がいっぱい来る・・・・・・・・・・・・ううっ!」
「がんばろう、澪ちゃん」
「澪先輩!」

 顔を青くしてフラッとする澪と、それを支える紬と梓。
 なんとも対極的な反応であった。

「ま、こういうのは慣れだ」

 軽~く言う歩を澪はジト目で見詰めるが彼は無反応だ。
 すると、律は思い出したようにポンっと手を叩いた。

「そういえば中学の同級生で、同じようにバンド活動してたな・・・・・・」
「マキちゃんのこと?」
「参加メンバーの中にいるかもしれないぞぉ!」

 どうやら知り合いがバンドを組んでるらしく、律と澪は参加者リストを見る。
 当然だが、まだリストは無かった。

「とりあえずは3日後の打ち合わせに行くが、本番まで俺が全部準備をしておく。もちろん経過や必要なことは全部皆に報告しよう。どうだ?」

 資料をサッサッと直して、必要事項を記入していく歩をみて、皆は口をそろえて言った。

「「「「「た、頼もしい」」」」」

 過去に部活申請漏れやら、学園祭参加申請漏れだのと、真鍋和に迷惑をかけ続けた一同は、歩の有能な補佐に感動した。

 








 紬は、歩に対して何度か話しかけようとしたが、タイミングを逸してプライベートな会話をすることが出来ずに練習が終わってしまい、ウキウキしながら帰る一同の中で微妙に挙動不振な紬がいる中、都内の某病院内にて、ある会話が行われていた。

 病院に現在入院しているのは、ブレードチルドレンのメンバー。
 その中でも『最も頭がキレる』といわれ、『爆発物のエキスパート』『爆炎の妖精』と称される人物。
 竹内理緒。
 その少女である。

「そう・・・・・・ですか」

 彼女は全てを聞かされた。
 これまであった、ブレードチルドレンのこと。カノン・ヒルベルトの死亡。ミズシロ・火澄の存在、そしてその意味。鳴海歩と火澄の対立。鳴海歩が清隆の思惑を打破し勝利したこと。

 そして―――――鳴海歩の近い将来の死亡と、ブレードチルドレンの果てしない戦いの人生。

「で、あんた達はどうする?」
「・・・・・・・・・・・・」

 ブレードチルドレンとの橋渡し役・土屋キリエ。
 鳴海歩から事件の顛末後から全ての情報を託され、以後はブレードチルドレンたちの面倒を見たり相談に乗ったりなど、いろいろと忙しい身の女性である。性格は微妙にまどかに似通っているところもあり、某美少女によれば『歩といちゃついた』過去をもつ。

 理緒は祈るように両手を重ね、ジッと目を瞑って黙っていた。

(弟さん・・・・・・まさか、そんなことになっていたなんて)

 思えば、自分は鳴海歩という1人の男の子に対して、ずいぶんと酷い事を言っていた。
 カノン・ヒルベルトとの戦い前は命を狙ったので言わずもがな、その後も散々『貴方は私達の希望の光だ』と言い続け、その重荷を押し付けた。

 結果からいえば、自分達ブレードチルドレンよりも早くに破滅し、自分達よりも早くに死亡する身であったのだ。

「・・・・・・何、泣いてるのよ」

 キリエが苛立ったように声を上げた。
 彼女は最後まで歩の戦いを見届けた1人だ。その経過、つまり歩がまさに自分の全人格・出生すら否定してボロボロになってまで戦い抜いたその姿を、キリエはその綺麗な瞳で見てきた。

 理緒の瞳から零れ落ちた涙に、キリエは無性に腹が立ったのだ。
 それは『どっち』への哀れみか、怒りだったのか。

「・・・・・・弟さん、いえ」

 理緒は常に歩のことを『弟さん』と言ってきた。だが。

「歩さんに、会いに行きます」

 理緒の言葉に、キリエは目を細める。
 会いに行ってどうするのか、一言二言の感謝でも述べるつもりか、そういう目であった。

 そんなキリエの無言の反対に、理緒は首を振った。

「歩さんと、同じ学校に行きたいんです」
「桜ヶ丘高校に?」
「はい」

 理緒は小さな身体をベッドから起こし、よいしょ、と声を出して地面に降り立った。

「あの人と一緒にいて、少しでも傍にいたいんです。そして私なりの―――」

 答えを見つけたい。
 そう理緒は振り返って笑って云った。






 理緒という女性の特徴を端的に挙げれば、最高の知能・身体能力を誇るブレードチルドレンの中で一番小さい身体でありながら最も精神的に強い、そう評価できる。
 どんな絶望的な状況であろうが諦めず、そのズバ抜けた知力で打破し、諦めない気高い少女。

 それはブレードチルドレンのメンバーで、浅月やアイズ、高町たちにでさえ、『戦いの中で甘える、頼る』ということはしないのだ。
 もちろん戦術的意味合いでは頼るが、一方的に縋る、ということはなかった。

 だが歩に対してだけは違った。

 彼女はひたすら歩を頼った。
 当初は清隆の言葉があったから歩を頼っていただけだが、彼女はその戦いの中で歩を自然と信頼していき、そして心から歩を頼った。

 それはある種の依存といってもいい。

 それが、喪われる。

「待っていて下さい、歩さん」

 病院の廊下を歩く。
 薬品の臭いが鼻を突き、騒がしい喧騒が理緒を揺さぶる。

 ―――絶対に訪れる、医学上から見ても致命的な臓器衰弱による死亡。

 自分にできることは、ない。

「ひよのさんがいない今・・・・・・私が傍にいます」

 ギリっと唇を噛んだ。
 歩の傍にいて、少なからず自分達も彼女に助けられた。
 だが。
 それは、裏切りであった。

「私は裏切らないっ」

 今度は負けない。
 理緒は、かつての歩の相棒―――結崎ひよの―――に対して激しく憤りながら、その小さな身体を必死に動かし、目的の地へと向かっていった。

「私は、信じます。貴方は死なないって。貴方に、救いはあると」

 自分は信じ続ける。
 遠い未来、自分の傍にどんな形であれ、歩がいると。 



続く。




短い・・・・・・。
だけど切りが良いのでここでストップを。
次回はライブ。そして編入です。
ありむんの小話 * Com(5) * Tb(0) * page top↑ * [Edit]
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マリア様がみてる
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(クレプスキューレと読みます)
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ゲーム化!!
きゅうりは絶対
ムギちゃん!!!

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