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第9曲 妖精は未だ神に会えず 
2010 / 07 / 29 ( Thu )  01:25









「・・・・・・・・・・・・」

 一軒家から見渡せる街並み。
 朝靄がかかった展望を、歩は見詰めていた。

「・・・・・・・・・・・・」

 昨夜のライブ初成功を祝して、平沢唯の自宅にて行われた宴会、もとい祝勝会。
 男の自分が女性宅に入るのも宴会に加わるのもどうかと思う歩。
 結局は、満場一致で却下されて問答無用で連行されたのだが。

「・・・・・・ついに、始まったか」

 胸元に手を当て、ボソリと呟く歩。
 己に科されたタイムリミット。その兆候がついに明るみに出た。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっかく、決めたばかりなんだがな」
 
 がんばろう、そう思ったばかりの事だった。
 なんとも自分らしい愚かしさだと思う。
 肝心なことはいつも出遅れ後悔する。やはりそう簡単に人というのは変わらないのだ。

「あれ? 鳴海さん? 早いですね。もう起きてたんですか?」
「ああ、平沢さんか。おはよう」

 窓を開けてベランダに出てきたのは憂。
 エプロン姿で出てきた格好を見ると、これから朝食を作るのだろう。
 そこで憂は、歩の目の下に微妙に隈が出来ていることに気がつき驚く。

「もしかして一晩中起きてたんですか?」
「ああ。いろいろあったからな。眠れなかった」
「そうですよね。お姉ちゃんたちのライブ、大成功で良かった~~~」

 眠れなかった理由がライブ成功による興奮だと勘違いしたらしい。

「当事者であるお姉ちゃんたちは、ぐっすり眠っちゃってますけど」
「そうだな」

 こたつで死んだように眠る5人と顧問の教師のことだ。
 くすくすと憂は笑い、歩の横に来る。
 朝日を見て、憂がキレー、と声を上げた。歩はそんな彼女を見詰め、思わず言葉を洩らした。

「なあ、平沢」
「はい?」
「やりたい事があったとして、でも行うには既に遅かったとしたら・・・・・・どうする?」
「え? えっと、よく意味がわかりませんが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん~~、そうですねぇ。私だったら・・・・・・遅くてもやると思います」
「それが中途半端で、無様な結果しか出せないとしても?」
「はい。だって」

 歩へ振り返った憂の答え。
 それは彼女にとって大好きな姉のお世話をすることであり、それをこれからやるとしたら、という事に対しての答えでもあった。



 ――――やりたい事なんですから



 至極単純で、でも難しい。その解に至るのも、そして自らの言葉でそれを口にするのも。
 歩は憂の笑顔とその言葉に、全身に風が吹き抜ける感覚を得ることになった。

 そして。

「そうだよな」

 朗らかに笑った。

「強いな、平沢は」
「そうですか? でもでも、私がそれをしたら、お姉ちゃんはきっと笑ってくれると思うんです」
「・・・・・・平沢のやりたい事って、姉を補佐することなのか?」
「はい!」

 自分達兄弟には無縁の感情だなと苦笑する。
 彼女のその一点の曇りの無い笑顔に、歩は自然と微笑む。その笑顔はあまりにも自然で。
 彼がずっと昔に、失くしたもの。

「そうか・・・・・・優しいな、憂は」

 頭の上にポンっと手を置き、クシャクシャっと撫でる。
 それは彼にとって無意識に出た行動であった。特に他意はなく、爆弾事件の時の竹内理緒にしたように、撫でただけ。

「ふぇぇぇぇ!?」

 ボンっと頬を赤らめ、歩を見上げる憂。
 突然名前を呼ばれた事に驚き、そして手の温もりに驚く。

 だがそんな憂の反応に気付かず、歩は彼女に感謝した。

「ありがとう、憂。俺も・・・・・・精一杯生きるさ」
「? ・・・・・・は、はい」

 その言葉の意味を、憂は分からなかった。
 そして彼女はその言葉の意味を、後に気付くことになる。

 彼女は歩の言葉を思い出し、そして・・・・・・。

 ただ今は、元気になった歩に対し憂はただ嬉しかった。





 





「ねえ、鳴海君は今日は来ないのかなぁ?」
「さぁ・・・・・・?」
「気付いた時は、もう教室にはいなかったな」

 翌日の軽音部部室に集まっていた唯たちは、いつも通りお茶を楽しんでいた。
 少し疲れが残る彼女たちは若干だらけ気味だ。
 しかしいつも居る男の子の姿が何時まで経っても見えず、彼女たちは戸惑っていた。

「昨日のライブが成功したのも、鳴海君のお陰だったのになぁ」
「そうだよなぁ。タイムテーブルとか何を書けばいいんだって話だし」
「私達は歌えばいいだけだったものね」
「CDも販売されてました」
「そうだったな・・・・・・私達の練習も、ずっと見ててくれたし」

 澪がしみじみ呟く。
 初ライブのあの瞬間。頭が真っ白で観客の目が怖かったの瞬間。
 律のドラムの音が耳に飛び込んできた時に自分の手は自然と音律を奏でていた。

 ライブハウスの最後方の壁に、歩が寄りかかって自分達を眺める姿を発見したときは何故か安心した。
 そしてジーンと胸の奥が暖かくなったのも感じた。可笑しな話だが。

「そういえば・・・・・・」

 なんの脈絡もなかったが、澪は気付いた。

「どうしたの、澪ちゃん?」
「いや、私って鳴海君のこと全然知らないなぁって」
「そういえばそうだなぁ」

 澪の言葉に律も同意する。
 そして自然と皆の視線は紬に集まる。

「私も知らないの。鳴海君がピアノをやっていたってことしか」
「あの、私ネットとかで調べたことがありますよ」

 意外にも梓がそう言った。
 おおっ、と関心した声が上がる。

「ネットでは、鳴海先輩のピアノの成績が主な情報でした。他には鳴海先輩のお兄さんのことくらいです」
「ん~~~~~、真新しい情報はないなぁ」
「そうだな」

 律と澪が頷く。
 意外かもしれないが、実は唯ですら知っている情報だ。
 ピアノ界でも神話となっていて、崇め称えられている凄腕の人であり、警視庁では名刑事として君臨する兄を持つということ。
 この情報を聞いて思ったことは、皆が一緒であった。

 兄弟揃って凄いなぁ、ということ。

「そういえば、昨日さ、鳴海君のお姉さん来てたじゃん。綺麗な人だったよな」
「はい。とても」

 律の言葉に梓が頷く。
 ライブ終了後にまどかを紹介され、皆は綺麗なOL女性の体現者とでもいうべきまどかに赤くなった。

「さわ子先生も綺麗ですけど、お姉さんはキリっとしててかっこよかったです」
「なんとなくだけど、澪ちゃんに似てるよねぇ」
「わ、わたし!?」

 紬がポーっと頬を赤らめて言えば、唯が突拍子もないことを口にする。
 澪は唯のあまりにも予想外な言葉に目を丸くして驚いた。

「まあ、そりゃあ私もあんな人になりたいなぁ、って思うけど」 

 澪がブチブチと呟きながら紅茶を飲み、おかわりをして再度口をつけた瞬間だった。
 ガチャっと扉が音を立てて、扉が開いた。
 
「こんにちわ~」
「「へ?」」
「んあ?」
「誰ですか?」
「どなたでしょうか?」

 それぞれの奇声が誰かは想像して欲しい。
 視線の先に居たのは歩ではなく、1人の女子生徒だった。

 この中の誰よりも背が低い。
 しかし印象的なのはその眼光の強さ。可愛らしい容姿よりもその瞳の方が印象的というのも不可思議な話だった。
 その少女は小さくお辞儀をして、皆へと挨拶した。

「どうも初めまして。本日、この学校に編入してきました『竹内理緒』です。よろしく!」








「へぇ~~~、鳴海君と前の学校で一緒だったんだぁ」
「はい。プライベートでもよく遊びましたし(爆弾的な意味で)、清隆お兄さんとも仲良いんですよ」
「「ほほ~~」」
「親の事情で引っ越して付近の家に住んでるのですが、編入した学園に歩さんがいると聞いて驚きました。それで挨拶に、という感じですね」

 思いっ切り猫を被っている理緒。
 歩と出会った頃のように純粋な少女を演じる彼女は、小さな身体と相成って可憐である。

「あずさとは違うクラス、なのか?」
「え? 私のクラスには編入生は来ませんでしたが・・・・・・」
「という事は、あずさとは違うクラスなのか」

 澪がう~む、と唸る。梓自身も今朝からの記憶を辿り、どこかのクラスに編入生が来た云々の会話が無かったか探る。
 そこでふと妙な視線を感じた。

 理緒が澪と梓をジトーっと睨んでいたからだ。

「え? え? ど、どうかした?」
「え、えっと・・・・・・」
「・・・・・・私、2年生ですけど」

 突然ニコニコしていた可愛らしい少女にジト目を向けられた澪は慌てる。
 理緒は理緒で本当はさらに一つ年上なのだが、言われ慣れているとはいえやはり腹が立つ。
 そんな理緒の言葉にビシリと空気が固まり、唯や律がぎょっとした顔をする。

 どうやら彼女たちは皆、理緒の事を梓と同じ1年生だと思っていたようだ。
 唯たちは必死に謝り理緒のご機嫌を取る。

 理緒は、ハァ、と大きな溜め息を吐いて、本来の目的を果たす事にした。

「それで、歩さんはどこにいるんですか?」
「えっと、鳴海君なら今日はまだ来てないよ~~」

 唯がそう答えると、理緒はそうですかと呟いて考え込む仕草を見せる。

「今日は来ないかもしれないぞ」
「そうね。いつも私達と一緒に来てたけど、今日は最初からいなかったから」

 律と紬もそれぞれ自分の考えを口にし同意する。

「よし、じゃあ直接聞こうっと」
「「「「「!!」」」」」

 そして目の前で携帯を取り出し、歩へと電話をかける理緒。
 実は軽音部のメンバーは、誰も歩の携帯番号を知らない。

 男の子という要因もあるし、聞くタイミングが無かったというのもある。
 過去に女子中だったという要因もあり、突如男の子相手に聞くというのも、彼女たちにとっては慣れていない限り難しかった。

「あ、もしもし? 歩さんですか? 私です。理緒です。今大丈夫ですか・・・・・・って、弟さんっていうより良いじゃないですか。
 ええ。久しぶりですね。今どちらにいるんですか?
 私、今日桜ヶ丘学園に転入したんですよ。え? ええ、そうです。それで軽音部部室で皆さんに聞いて電話してるんですが。
 あ、今日は来ないんですか? そうですか。分かりました。また明日会いましょう」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 ―――――ピッ。

「どうやら今日は用事があって来ないようです」
「そ、そう」

 澪が何故か機嫌が眉を顰めて返す。その反応に理緒は目を細め、そして小さく微笑み席を立った。
 ペコリと小さくお辞儀をする。

「では、また明日こちらに伺いますね」
「そ、そっか」
「はい、部長の田井中律さん。恐らく、私も入部すると思いますので、その時はよろしくお願い致します」

 そう言って、出て行く理緒。
 彼女がいなくなってから、5人の彼女たちは一斉に顔を合わせて、

「「「「「「ええぇぇ~~~~~~~!? 入部~~~!?」」」」」

 いきなりの新入部員獲得と、嵐のように現れて消えていった少女に、彼女達はついに絶叫を上げたのだった。










「本当にいいのね、歩」
「・・・・・・・・・・・・」

 歩の後ろにいるのは、保護者となっている鳴海まどか、鳴海清隆の2名。
 今現在、歩がいるのは日本ピアノ協会の建物の前であった。
 理緒からかかってきた電話の直後で、彼女が軽音部に入部したと聞いて頭を抱えた歩であったが、すぐに気を取り直した。

「・・・・・・・・・・・・ああ」

 歩は久しぶりに見る協会の建造物を仰ぎ、小さく頷いた。

 清隆は歩の心境の変化を、そして彼が何を考えているのか、見透かすかのように目を細める。
 清隆はこの歩の変化を嬉しく思うのと同時に、実は反対であった。

(間違いなく『これ』をすれば歩への負担は大きくなり、寿命を縮めるだろう)

 しかし反対することはできない。
 彼はあらゆる意味で、反対できる立場にはいなかった。

 だから清隆は『ソレ』に至る為の条件を再度確認の意味で口にする。

「分かっているな、歩」
「?」
「期間は短い。1週間後の関東ピアノコンクールで優勝し、一ヶ月後の本選の全日本ピアノコンクールで優勝するんだ」
「ああ。分かってる」

 その2つの優勝を手土産にすれば、自分は復活の狼煙を上げられる。
 そして2年のブランクに対して、協会の人間は誰も文句をつけることはできない。

 そうすれば。




「世界3大ピアノコンクールの一つ、

 ―――フレデリック・ショパン国際ピアノコンクール―――に出場できる」




 歩の決意に溢れた言葉に、まどかは心配そうに声を出した。
 彼女の声は震えていた。

「でも歩・・・・・・あんたは・・・・・・」

 まどかは歩に己の身体を大事にして欲しかった。
 でも彼の気持ちを大事にしたかった。
 彼の身体に負担をかける事はなるべく避けたかったのだ。

「義姉さん」

 そんなまどかの声を遮り、歩は振り返って小さく微笑んだ。

「俺は、ショパンコンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際コンクールを全て制覇する」

 それを達成したい。
 するべきだと、歩は誓った。

「それが、俺が生きた証であり・・・・・・あいつらと共に生きていると、誇れると思うんだ」

 そして何より。

「俺が・・・・・・やりたい事、だからな」

 それが、彼女たちから学んだことだった。






 この日、1人の日本人ピアニストが現役へと復帰の狼煙を上げた。
 それは長い間、日本の引率者というべき頂点の人物を失っていた日本ピアノ協会にとって狂喜乱舞する程で。

 天使の指先の復活は、あっという間に関係者へと知れ渡った。









 憂がヒロインと決まってはいません(笑)
 つーか、17話最高でした。これはこの小説に応用できるなぁと、企むこの頃。
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ありむんの小話 * Com(5) * Tb(0) * page top↑ * [Edit]
Comment to this entry
   新話感想
 どもっすきゅきゅきゅーです。更新お疲れ様です!更新が楽しみで一日一回はここにきてますww

 里緒がついにやってきましたね!完璧にすれ違いましたがwwけいおん部との絡みが楽しみです!

 里緒の転校にハンター達が騒ぐからお目付け役としてキリエちゃんが来るとかもどうでしょう?(笑)
さわちゃんといいコンビになりそうなきがするんだww
From: きゅきゅきゅー * 2010/07/29 02:23 * URL [Edit] * page top↑
   理緒の参入
ども、元ヴィレイサーです。
作者名に変えました。

さて、どうでもいい事は置いといて、
歩のこれからがすごく気になる流れでした。
もう、かっこいいです! かっこよすぎです!

理緒が参入してきましたが、
こちらもとても楽しみです。
軽音部との修羅場が!?

とまぁ、深読みは止めてこのへんで失礼します。

暑い中、お疲れ様です。
それでは。
From: 鮮血の刻印 * 2010/07/29 11:05 * URL [Edit] * page top↑
   次回理緒の入部で嵐が来るか
更新お疲れ様です。ニッケルです。l

やっと理緒がやってきました!歩と直接は会えませんでしたが。歩の方もピアノ界に復帰ということでこれまでから大きく一歩を踏み出したようですね。

電話直後の反応から澪は歩を意識してはいるようですが、理緒がどうなのかは分からないですね。なんとなく理緒の立ち位置は近くで見守りながら時に手助けできれば良いという感じもしないでもないですが。でも参戦するなら理緒頑張れ!

次回軽音部への理緒の入部でどんな嵐が吹き荒れるか楽しみにして待ってます。最近暑いですから健康に気を付けてください。
From: ニッケル * 2010/07/29 17:35 * URL [Edit] * page top↑
   読ませていただきました~
更新されていたので早速読ませてもらいました。
とうとう理緒が出てきましたね~
理緒の部員たちとの歩との距離感の違いがどういう風になるのか楽しみですw
憂との付き合い方がどういう風になるのかや、歩のやりたい事がどこまで出来るか等引き続き気になります。
これからも頑張ってください、応援しています。

P・S 前回の返信で自分の作品をといわれましたが、もう一人の方のほうと思います。自分読み専なものでw
From: fragment * 2010/07/30 00:15 * URL [Edit] * page top↑
   jRSmerhhmp
From: wmnfnrbn * 2012/09/03 01:12 * URL [Edit] * page top↑
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秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
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(クレプスキューレと読みます)
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進行状況、小言、など展開(?)
していきます!!


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